特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:18 ANNE ET VALENTIN・カオリンさん

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思う存分 メガネトークがしてみたい!

そうだ、あの人に会いに行こう。

業界人と思う存分“メガネトーク”を楽しむ本連載。今回から特別編として
シルモ・パリ2016で注目した4つのヨーロッパブランドのインタビューを掲載します。
まずはアン・バレンタインのアーティスティック・ディレクターのカオリン・デュフールさんです!

file : 18 | ANNE ET VALENTIN カオリン・デュフールさん

オプティシャンからデザイナーへ
アン・バレンタインの「懐刀」。

人の顔をキャンバスに見立てて、顔の上に線を引くかのようにデザインする——。そんなエスプリが利いたデザインで人気なのが、フランスブランドのANNE ET VALENTIN(アン・バレンタイン)です。デザイナーであるアン・バレンタインさんは80年代にフランス南西部の古都トゥールーズに眼鏡店を開店し、1984年から自店のコレクションを夫と共に展開。1992年から本格的なハウスブランドとしてデビューします。


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アン・バレンタインさんと、夫のアラン・バレンタインさん。


——とまあ、ありがちな解説をしてみましたが、メガネ好きにはお馴染みのブランドなのです。加えて、近年のクラシックブームから判で押したような量産デザインが生まれるなか、アン・バレンタインはシートメタルとアセテートを重ね合わせた繊細なツートーンや、ト音記号のようなヒンジデザインを配したメタルフレームなど、独自路線を展開。“ビンビン”に攻めつつも時代に合致したアイウェアを生み出しています。


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トゥールーズのショップ。現在、フランスで2店舗、アメリカで3店舗を経営する。


今回はアーティスティック・ディレクターを務めるカオリン・デュフールさんに話を伺います。まずはこれまでのキャリアをお教えください。


「私は元々オプティシャンで、アン・バレンタインで働き始めて25年になります。最初の18年間はトゥールーズの店で責任者をしていましたが、7年前からはアーティスティック部門でアンと共に働いています」


25年前というと……1991年! まさに同ブランドが本格始動し始めるタイミングですね。カオリンさんはチーフデザイナーのようなポジションだと伺っていますが、今のアン・バレンタインはどういったプロセスでメガネがデザインされているのでしょうか?


「デザインチームには3人のデザイナーがいて、彼らは技術や素材に関する調査・研究を行っていて、常にあらゆるメガネの形状やアイデアを頭の中に蓄えています。デザインのプロセスとしては、まずメガネを掛ける人の性別やファッションスタイル、年齢の範囲を定めてグループを作ります。そしてデザイナーは頭の中にある引き出しから、ターゲットとするグループのスタイルにマッチしたアイデアや技術を引き出すのです。次に、ターゲットとなるこのグループのスタイルに合ったメガネの形を決定します。もちろん、並行してターゲットに見合った色も決めていきますよ」


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アン・バレンタインのデザインオフィス。


ほうほう……ターゲットのセグメントが先で、そこにデザイナーのアイデアを結びつけるんですね。センスが先達っているブランドなので、ちょっと意外でした。ちなみに、いま創業者のアンさんはなにをしているんですか?


「彼女はアトリエで製造されたすべての製品をチェックして、GOサインを出しています。1つひとつのメガネにアン・バレンタインのブランド精神がきちんと吹き込まれているかどうかを、彼女は自分自身で確認しているのです」


なるほど、アートディレクターのような存在ですね。

懐古主義的なクラシックなメガネは
ブランドのエスプリに合わない。

では、メガネをデザインするうえで、カオリンさんが大切にしていることはなんですか?


「いちばんはエネルギーを感じられること。新鮮さを感じるライン、そして色と技術を大切にしています。私たちは常にアン・バレンタインのメガネを掛けてくれる女性や男性のお客様に、そのメガネを掛けることで自信を持ってもらえるような製品を提供できるよう心掛けています。ただし、そのメガネはその人自身が持っているアイデンティティを強調してくれるものであり、ただ流行を追うのではなく、時を経ても趣味の良い、価値あるものでなければなりません」


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トレンドを追いかけるだけのメガネはつまらないですよね。クラシックやレトロがトレンドになってから、日本では昔のメガネの焼き直しが流通し過ぎて、飽きちゃいました(笑)。でも、アン・バレンタインは過去のメガネデザインの焼き直しははせず、常に新しい提案をしてきた。何故でしょう?


「……そのようなメガネをデザインすることに興味がありません。何故ならアン・バレンタインのエスプリに合わないからです。それに、ヴィンテージのメガネはどちらかというと男性的な感じがして女性が掛けた場合は年齢よりも老けて見えてしまう傾向があります。私たちはその全く逆の方向性でデザインをしているのです」


女性のヴィンテージメガネは老けて見えるってのは、率直でわかりやすい意見ですね。では、ここからはシルモ・パリ2016で発表した新作のなかから、ニューコンセンプトの2シリーズについて教えて下さい。「TOGETHER」で表現したかったことは?


「『TOGETHER』では、チタンとアセテートの素材をパズルのように組み合わせています。私たちはメタル素材の軽さやメタルフレームの造りを高く評価している女性に向けて、主に金属を使用したメガネを作りたかったんです。ただ、100%メタルフレームでは面白くないので、アセテートのパーツを合わせることで、遊び心のあるパッと人目をひくような華やかなフレームに仕上げました」


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「TWO col.H23」。4万7000円(税抜)。


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「TWIN col.H24」。4万7000円(税抜)。


確かに、ブロウラインの切り返しが鮮烈で、キャットアイのように女性の目元をエレガントに強調してくれますね。では、「UNITED」で表現したかったことは?


「『UNITED』では、『カジュアル・シック』そして『シンプルな喜び』のエスプリを表現したかったのです。そのためにすっきりとしたラインの薄いフレームを採用し、それに合った色や素材選びに取り組んできました」


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「U MIX col.1653」。4万2000円(税抜)。


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「U MEET col.1652」。4万2000円(税抜)。


フロントのシェイプはパントゥやバタフライなど、シンプルでシックですが、テンプルのメタルパーツのカラーやデザインに遊び心を感じますね。……ヤバい欲しくなってきた(笑)。

ヴィンテージばかりにこだわる
日本のメガネ業界はとても保守的!?

……このままでは衝動買いしちゃうので、視点を変えましょう! 日本とフランスのメガネ業界で違いって感じますか?


「日本とフランスでの大きな違いは、メガネを売る側が消費者に対して行っている提案ですね。私たちのクライアントである日本のメガネ業界は、とても“保守的”です。もちろん、すべての日本のオプティシャンを差しているのではありませんが、多くのブティックはヴィンテージに強いこだわりがあるようで、それ以外のデザインを扱うリスクを避ける傾向にあります。彼らは、主に男性のお客様向けの商品を仕入れているようですが、女性のお客様向けにはあまり商品を提案していないようですね」



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いや〜、イタいところついてきますね(笑)。クラシックブームの功罪というか、黒ぶちが流行ってそれが基準になったせいで、主張の強いデザインや色がトレンドから棚卸しされて、結果、日本人のメガネ選びが保守的になった。で、世の中は不況だし、3プライスもあるしで、セレクトショップとしても売れるメガネばかり仕入れるように……といったところですかね。女性用メガネがイマイチ発展しないのは……なんででしょう? 手本となる女子セレブのカリスマがいないからとか。


「日本で青山のヘアサロンをいくつか見たとき、日本女性とフランス女性にはあまり違いがないように見えました。でも、日本のメガネ業界は女性への提案に大変とぼしく、彼女らはその提案されたメガネの中から仕方なく選んだものを掛けているといった印象なのです」


残念ながら、女性は偏ったセレクトの中からメガネを選んでいる部分は否めないかも。そもそも日本では、女性用メガネのハウスブランドは層が薄い。


「一方で、日本人の男性はフランス人の男性よりも自分のファッションスタイルにいつも気を配っていますよね。日本では男性のためのファッション誌が数多く存在することからも、それがわかります。しかし、彼らがメガネに関してはヴィンテージにしか興味がなく、排他的であるのが残念でもったいないと思います」


「あれ、バレました?」。いや冗談ッス、すいません。カオリンさんのおっしゃることはもっともですが、いま日本でも感度の高いブランドやショップはクラシックから一歩先に進むべく踏み出していますよ。そして今後のベンチマークとなるのは、アメリカブランドではなく、アン・バレンタインをはじめとするヨーロッパブランドではないのかな? と個人的には思っていたり……。というわけで、これを機会に食わず嫌いだったアン・バレンタインのメガネを衝動買いしました!(実話)。保守的なのは否めないので、まずは自分から変えてみようかなと(笑)。


カオリンさん、ガチンコのインタビューありがとうございました!


取材協力/グローブスペックス

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メガネ連載