特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:19 Lesca LUNETIER・ジョエル・レスカさん
思う存分 メガネトークがしてみたい!
そうだ、あの人に会いに行こう。
業界人と思う存分“メガネトーク”を楽しむ今連載。今回から特別編として
シルモ・パリ2016で注目した4つのヨーロッパブランドのインタビューを掲載します。
今回はLesca LUNETIER(レスカ ルネティエ)の創設者、ジョエル・レスカさんです!
file : 19 | Lesca LUNETIER ジョエル・レスカさん
フランスジュラ地方に伝わる
伝統的なメガネ作りを守り続ける。
“フレンチ・ヴィンテージ”という新たなトレンドをメガネ業界で打ち立てたのが、仏ブランドのLesca LUNETIER(レスカ ルネティエ)です。今回ご登場いただくのは創設者のジョエル・レスカさんなのですが、まずはどんなブランドなのかを解説しましょう。フレームはフランスの東南山岳地帯であるジュラ地方のモレ村で作られています。
ジュラ地方は日本でいうと「鯖江」のようなもの。世界に誇るメガネ産地として古くから手作業の製造が盛んで、ヨーロッパの中核的な産地として発展してきました。“豪雪地帯”で冬の間に自宅で作業が行えるメガネ産業が発達してきた、といった背景も「鯖江」と似ていますね。
そんなジュラ地方で20世紀初頭からメガネ製造に携わってきたのがレスカ家で、1964年に大手眼鏡ブランドで働いていたジョエル・レスカさんがブランドを立ち上げます。そして、同年、パリ19区のスクレタン地区に小さなアトリエを構え、レスカ家の伝統を受け継ぐ形で自身のコレクションを製造・展開し始めるのです。
レスカには2つのコレクションがあります。ひとつは、ジョエルさんが集めた1940〜1970年代のヴェインテージを扱うFrench Vintage(フレンチ・ヴィンテージ)。
約半世紀前のヴィンテージフレームは、そのまま出荷できない半完成品の部品なので、熟練の職人が手作業で仕上げを行います。
当時のヨーロッパ独自の工作機や伝統技術を用いて、職人の手で一本一本丁寧に研磨や歪みなどの微調整を行います。そうして品質の高いヴィンテージフレームが完成するのです。
もうひとつのコレクションが、フレンチトラッドなデザインのエッセンスを現代にアップデートさせたLesca LUNETIER(レスカ ルネティエ)。こちらは今の「鯖江」にも通ずる近代的な設備の工場で作られており、デジタルデータによるNC加工機なども用いられています。
ちなみにレスカの古い職人の自宅ガレージには70年代頃まで使われていた加工機が残され、古くから貯蔵されていたメガネの金型なども大量に保有されています。驚くことにそれらはいつでも稼働できる状態にあるそうです。
プラスチックフレームのフロントを打ち抜くための昔の金型。
おそらく現存する最古のフレーム切削機。ハンドルを回しながらプラスチックフレームを切る。
ときには機械を動かして趣味のようにフレームを作ることも。
ほかにも貴重なアンティークメガネや古い資料などが沢山あり、さながら個人のメガネミュージアム。そんなリアルなアーカイブがあることもブランドの魅力や奥深さにつながっているのです。
日本でのクラウンパントゥブームにハテナ?
ポピュラーなものを作り続けてきただけ。
「French Heritage(フランスの伝承)」。レスカ家は自分たちの活動をそう呼んでいますが、その理由はもうおわかりですよね。では、いよいよジョエル・レスカさんに話を伺いましょう! そもそもジョエルさんは、どんな形でブランドに携わっていますか?
「私はブランドの創始者であり、オーナーであり、営業のトップでもあり、レスカ ルネティエのすべてのコレクションをデザインしています。ただ、私は自分のことをデザイナーだとは思っていません。何故なら、私の仕事はフランスの伝統的なデザインのメガネを今の人に合うようにアレンジすることだからです。ヴィンテージのデザインエッセンスを踏襲して逸脱しないことを心掛けているので、新作にしてもテーマを大きく変えることはありません。逆に前回と凄く違うとダメで、多くを変えていないから、人が見たときにレスカのフレームだとわかるんです」
なるほど、たしかにレスカのフレームは一目でわかりますね。それは多くを変えないことで、存在感やムードを作り上げてきた結果なんでしょうね。では、ブランドが大事にしている、フランスの伝統的なメガネ作りにはどういったものなんでしょうか?
「これは良さでもあり、悪いところでもありますが……頑固です。フランスのデザイナーは誰もが掛けられるメガネを作るというよりも、はっきりとターゲットを絞ってメガネを作り続けています。あらゆるマーケットに媚びるのではなく、『ここだけでいい』というものが明確だと思います。それがフランスのデザインの特徴で、変えないことが良さにつながっていると思います」
頑に変えないというのは見事にレスカに当てはまりますね(笑)。で、ブランドのアイコンといえばやっぱり「クラウンパントゥ」ですよ(ジョエルさんのオデコにのっているメガネ)。王冠のような形をしたボストンシェイプは、2013年にレスカのヴィンテージで日本上陸してブレイク! ちょうどアメリカ的クラシックなウェリントンやボストンに飽きて、「変化球が欲しい」と思っていたときに、「クラウンパントゥ」のクセの強いフォルムがピタリとハマったと思うんです。そのあたりどう思いますか?
「……なに? 日本ではそんなことになっているのか? 我々にそういう意識はまったくないぞ。『クラウンパントゥ』は1920年代頃からずっとラフンスにあって、私たちはただポピュラーなものをずっと作り続けてきただけだからね」
あらま〜。日本で新鮮に映った「クラウンパントゥ」もレスカ家からすれば、100年近く作り続けてきた身近なデザインだったのね。でも、レスカの「クラウンパントゥ」が入ってきてから、翌年、翌々年あたりにいろんな日本ブランドが「クラウンパントゥ」を作ってきて……。まぁ、日本は海外のものをアレンジして取り入れるのが得意な国だから、こうなるかと思いつつ、ブツブツ……。いや話は変わりますが、日本とフランスのメガネ業界で違いは感じますか?
「フランスには長い歴史をもったブランドがたくさんあります。そしてフランス人はブランドというものを、単に有名だからといった理由で好むのではありません。『このブランドにはこういう伝統があって、こういう物作りをしている』ということを認識して評価しています。つまりブランドを信頼しているんです。日本には数回しか行ったことがないので詳しくはわかりませんが、日本人が思うブランドとは少し違うと思います。流行やセレブリティが愛用しているからといった理由で選ばれているのではありません。実際はどのブランドも何かを頑に守り続け、それによって信頼を得ています。そこが日本とフランスの違うところじゃないでしょうか」
なるほど。エルメスにしてもブランド名よりも、ブランドの歴史や背景、職人による物作りが評価されているわけだ。そしてメガネ業界においては、レスカはフランスの伝統的な物作りによってブランドとしての信頼を得ていると。
「そうありたいと思っています。エルメスやディオール、イブ・サンローランなどフランスを代表するブランドがありますが、成功したブランドは必ず中心的なアイテムが存在します。それはたとえ代替わりしても、人々の記憶に残って思い出せるアイテムです。彼らは代を追うごとに忘れつつあるものを守り続けています。それはメガネでいうと、フランスの伝統的な製法やデザインです。そういったことをレスカは大切にしています」
レスカの中心的なアイテム=クラウンパントゥなんでしょうね。それを半世紀以上作り続けてきた。いや〜、徹頭徹尾まったくブレない姿勢が素晴らしい。今回はお忙しいなかありがとうございました。
「こちらこそありがとう。よかったら今度うちの倉庫に遊びに来なさい。私が若い頃に集めたヴィンテージのストックが、床から天井まで埋め尽くされているのをお見せしましょう。美味しいチーズとワインを用意して待っていますからね(笑)」
取材協力/グローブスペックス