特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:22 LINDBERG ヘンリック・リンドバーグさん
思う存分 メガネトークがしてみたい!
そうだ、あの人に会いに行こう。
業界人と思う存分“メガネトーク”を楽しむ今連載。ここでは特別編として
シルモ・パリで注目したヨーロッパ・ブランドのインタビューを掲載します。
今回はリンドバーグの首席デザイナー兼CEOのヘンリック・リンドバーグさんです!
file : 22 | LINDBERG ヘンリック・リンドバーグさん
いまも数年後も満足できる
誠実な心でつくる実用的なデザイン。
「例えば、見た目だけがいい家具を買ったら1ヵ月したら飽きてしまい、1年も経つと飽きたから次は何を買おうとなるでしょう。LINDBERG(リンドバーグ)のフレームは毎日掛けるものであり、ずっと掛けるものという前提でつくっています。それは誠実な心でつくるデザインです。実用的でいま掛けても素敵だし、しばらく経って掛けても満足できるようなものを。そんな哲学でつくっているんですよ」
そう語るのはリンドバーグの最高責任者であり、デザイナーのヘンリック・リンドバーグ氏。1985年にデンマークで創業した同ブランドは、業界内でいち早くチタンをメガネに取り入れ、エア・チタニウムという重さ1.9gの世界初の軽量フレームを開発、これまで世界で86のデザインアワードを受賞しています。ネジのないシンプルなデザインと軽快な掛け心地が魅力で、日本でも根強いファンが多く、渦巻き状のスパイラルヒンジはブランドのアイコンとなっています。
「スクリューレスはブランド創業時からの重要なキーワードです。何故なら、メガネは使っているうちにネジが緩んで落ちてしまうから。当時はネジを使わずに機能して、今だけじゃなくて3年後も同じように機能するヒンジの開発を目指しました。そうして、生まれたのが螺旋状のスパイラルヒンジです。実はこのスパイラルヒンジの中にはナイロンの芯が入っています。チタン同士でスパイラルヒンジをつくると摩擦が生まれ過ぎて、一方向には動いても逆方向には戻らなかった。だから、芯材にナイロンを使うことで摩擦を減らして、開閉できるようにしたのです」
こんな小さなパーツにチタンとナイロンという2種類の素材が使われていたのが驚きです。約30年以上前に開発されたスパイラルヒンジは、いま見ても洗練されています。リンドバーグの物づくりの背景には、シンプルで美しい形状の「北欧デザイン」の影響があると思いますか?
「私自身が直接、影響を受けたわけではないですが、たしかにデンマークの家具や洋服はクリーンなデザインで余計な装飾がないものが多い。そういったものに触れて暮らしてきたので、私自身の考えやデザインに少なからず影響は与えていると思います」
なるほど、なるほど。また、リンドバーグにはツーポイントのスピリットや、独自開発の素材を採用したn.o.wなど、多くのシリーズがありますが、新しい機構を開発するのにどれくらいの期間がかかるんでしょうか?
「ロング、ロングタイム(笑)。アイデアが出るまでにすごく時間がかかることもあれば、アイデアはすぐ出たのに生産までに時間かかることもあります。特にn.o.wは時間がかかりました。はじめは既存の材料からつくろうとしましたが、ペラペラな質感になって満足いかなかった。そこで素材の開発からはじめ、完成した後はテストを行いました。テストはさまざまな環境下で素材にどんな反応がおこるか、どのくらいの温度でどのように加工するかなどです。最終的に開発まで2年ほどかかりましたが、凄くユニークなものができたと思いますし、ほかのブランドには真似のできないものができたと自負しています」
ファッション感度が高まった
デザインが生まれた背景とは?
ここ最近のリンドバーグはクラシックかつ大胆なデザインを取り入れて、以前よりもファッショナブルになったと感じています。なにかターニングポイントがあったのでしょうか?
「そのアイデアは以前からあって、ほかのブランドを観察していたのですが、どうもいい方向にいかないと思ったのでリンドバーグがやろうと思ったんです。例えば、ほかのブランドでファッションにフォーカスを絞った場合、ロゴを大きくしたり、装飾を施したりといった手法になりがちです。フレームのインパクトは重さと比例しますが、リンドバーグはインパクトがあっても軽さは捨てない。私たちにしか表現できないファッションをやろうと思ったんです」
そう言ってヘンリック氏はさまざまなフレームを見せてくれました。
「デザインのコンセプトはオーナメント(装飾)で、女性らしさを表現しました。クラシックなシェイプですが、モダンさも表現できる。一般的なアジア人の顔は眉が下がりがちですが、このフレームをかけることでリフトアップ効果が期待できます。フロントがアセテートで見た目はエレガントで同時に軽い」
このモデルはフロントにワイヤーをとおしたW ブリッジです。細いチタンワイヤーを使うことで、強過ぎない洗練されたデザインになっています」
「ウッドを使ったこちらは、フレームをとても細く・薄くしています。薄くすることで重さがなくなり、掛け心地もいい」
なるほど〜。リンドバーグってワイヤーフレームのイメージが強かったのですが、新作発表のたびに毎回いろんな数の球を投げてくるというか、デザインの引き出しがすごく多いですね。
「実はずっとワイヤーフレーム以外のすべてのフレームに力を入れてきたんだけどね……。どういうわけ日本のメガネ業界はコンサバなところがあって、リンドバーグがワイヤーからスタートしたので、そのイメージが強いようですね。私はそのイメージを変えていきたいと努力しています」
日本はコンサバか……まぁ定番が欲しいっていう心理はかなり強いでしょうね。では最後の質問です。いまブランドが大切にしていることはなんでしょう? ファッション性? 機能性? 快適さ?
「う〜ん、難しい質問だね……。フィロソフィーとしては、やっぱり軽さがいちばんだよ。軽さからくる掛けたときの心地よさ」
ファッショナブルなフレームが増えても根本的なところは変わらない?
「もちろん同じです。リンドバーグが大切にしているのは、実用的なデザインであること。やっぱりこれは北欧デザインの考え方と同じだね」