特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:24 ボストンクラブ・小松原一身さん

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思う存分 メガネトークがしてみたい!

そうだ、あの人に会いに行こう。

業界人と思う存分“メガネトーク”を楽しむ今連載。今回はジャポニスムなどを手掛ける
ボストンクラブ社の小松原一身社長に、メガネ産地「鯖江」のいまと未来を聞いてきました。
2017年秋にオープンした「ボストンクラブビルディング」についてもレポートします!

file : 24 | ボストンクラブ 小松原一身さん

ボストンクラブ小松原社長に直撃!
メガネ産地「鯖江」でいま何が起こっているのか?

1984年に福井県鯖江市で創業したボストンクラブは、ハウスブランドのJAPONISM(ジャポニスム)を手掛けるなど、日本のアイウェアブームを牽引してきたメガネ企画会社です。2017年10月には本社横にあるビルをリノベーションして「ボストンクラブビルディング」が誕生しましたが、今回はボストンクラブの小松原一身社長にどーしても聞きたいことがあって、鯖江にやってきました!


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メガネ産地の鯖江には巨大なティアドロップのオブジェが!


藤井●今回、話をお聞きしたいと思ったのは、以前に小松原社長が新潟県燕三条市の「工場の祭典」や、富山県高岡市の「オープンファクトリー」に参加している様子をFacebookにアップしいていたのをお見かけしたからです。これらは産地の工場を見学できるイベントですが、鯖江もメガネ産地だし、他県のイベントを視察するということはなにか思うところがあるのでは? と思ったのです。


小松原●実は燕三条や高岡だけでなく、今治や豊岡にも足を運んでいます。今治のタオルや高岡の銅器や漆器、豊岡の鞄など、日本のモノづくりの産地から地域を活性化する取り組みがいろいろとあり、そこから学べることがあると思ったんです。


藤井●他県の取り組みからどんな収穫がありましたか?


小松原●たとえば、燕三条の「工場の祭典」では普段は見ることができない工場を見学でき、現場の人の話を聞きながら、モノづくりの背景や大変さ、歴史などを知ることができます。それらを知った後に商品を見れば、より愛着がわきますし、買って応援したいという気持ちになるんです。これは今後の鯖江の在り方を考えるヒントになるなと。


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藤井●なるほど。そもそも産地としての鯖江に危機感があったのでしょうか?


小松原●それもあります。鯖江を含めた福井のメガネ産業は、海外ブランドのOEM(メーカーが委託者のブランドの製品を製造すること)という“受け身”の仕事で大きくなりました。1992年の全盛期には福井県で1200億円強の出荷額があったのが、今は約半分(2014年566億円)に落ちています。何故こうなったかというと、1990年代にバブルがはじけ、その後、海外の高級ブランドのライセンスはイタリアに移行しました。2000年以降は3プライスが現れて価格競争になり、製造先の大半は中国になってしまったのです。


藤井●市場が二極化するなかでシェアが奪われていったんですね。僕はこれまで鯖江の工場を50件以上取材してきました。10年ほど前にある工場を取材したのですが、だだっ広い工場にプラスチックフレームの枠を削る機械が10台くらいあり、各マシンに職人さんがいて10人くらいで作業をしていました。でもリーマンショック後にその工場を取材したら、10台の機械はそのままで職人さんはひとり。広い工場でポツンとひとり作業している姿を見て「ヤバいな鯖江」と感じたのを覚えています。それと、10年前の時点で60歳を越えていそうな職人さんが多かったので、10年経っていよいよ引退する方が増えてきたのかなとも。


小松原●リーマンショック後ね。いろいろありましたよ……。でもご高齢の職人さんでも元気な方は現役ですし、二代目三代目へと経営者が代替わりしたところはなんとかやっていけています。ただ、後継者がいないところはその代で終わってしまうことも多い。どこの産地も後継者不足が問題になっていますが、鯖江も同じで、このままでは縮小する一方です。だからこそ、これまでのようにOEM中心でつくるだけで終わっていた鯖江ではなく、県外からも足を運んでもらえる鯖江になる必要があるんです。


藤井●「OEMからの脱却」は鯖江市も含め、ここ10年ずっと掲げているスローガンですね。ぶっちゃけ、メガネ産地という割には、鯖江にはメガネを買えたり、工場を見れたりといった“メガネ体験”をできるところが少ないですよね。


小松原●そうなんです。行政もメガネのまち鯖江としてPRして、知名度は上がりました。でも、鯖江に来た人が見て、買えるという場所が足りていません。


藤井●なるほど。そういった背景から「ボストンクラブビルディング」が誕生したんですね。

メガネづくりの背景を知って見て買える
「ボストンクラブビルディング」とは?

2017年10月25日、本社隣に隣接する築45年のビルをリノベーションして「ボストンクラブビルディング」が誕生しました。早速ポイントを聞いてみましょう!


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2017年10月25日、鯖江に誕生した「ボストンクラブビルディング」。


小松原●ビルの1階は「見て・買える」直営店。2階は「知る」をテーマにしたジャポニスムのミュージアムと、ミーティングスペースです。3階は「つくる」で、メガネの新素材や機構を開発するラボに。4階は「集う」をテーマにイベントなども行えるフリースペースにしました。


藤井●直営店の「ボストンクラブショップ サバエ」は、国道沿いの入口だけでなく、反対の公園側にも入口があって、公園からも入れるのが素晴らしいと思いました。


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ジャポニスムやベセペセなど、オリジナル商品全てを扱う「ボストンクラブショップ サバエ」。公園側からも入れます。


小松原●ありがとうございます。「三六公園」と言いますが、行政の方にも協力していただいて公園からもアクセスができるようにしました。


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こちらが公園側の入り口。


藤井●これ凄くイイですよ。公園で遊んでいる親子が店に立ち寄る様子が目に浮かぶというか、暮らしにメガネが馴染んでいるというか。ランドスケープを活用した店舗デザインは、東京のショップでは簡単にはできないはず。ある意味いちばん進んでいるのでは?


で、2階はジャポニスムのミュージアム。歴代のフレームがアートのように飾られていて、手描きのラフスケッチやメタルパーツの製造工程などを見ることができます。


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2階にあるジャポニスムミュージアム。


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藤井●チタンの芯材をプレスして立体的なブロウになるまでを段階別に並べて展示していますが、こういったものは一般の方は見たことがないでしょうね。


小松原●燕三条や高岡でも感じましたが、「これだけ手間がかかってつくられているんだ」ということがわかると、商品の見え方が変わってくるんです。愛着を持って大事に長く使おうと思うはず。また、3階のラボにはメガネを加工するマシンやパーツとともにメガネの加工場も設けています。


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3階にあるボストンクラブラボ。

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小松原●4階はワークショップなどが行えるフリースペースです。


藤井●冷蔵庫やキッチンが完備されているので、さまざまな使い方ができそうですね


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4階のフリースペース。


藤井●それにしても、これだけ大かがりなビルで直営店までつくってしまったわけですが、いまの心境はいかがですか?


小松原●目の前で自分たちの商品を選んで買ってくれる姿が見られるのは、つくり手冥利に尽きますね。近所の方はもちろん、県外や海外からわざわざ足を運んでくださる方もいます。先日は京都から2時間かけて来くれたし、ギリシャから来られたお客さんもいましたよ。鯖江の店で買って、銀座の直営店で受け取ることもできるんです。


藤井●なるほど、旗艦店として、PRやショールームとして機能する「グロス銀座」と、モノづくりの聖地である「ボストンクラブショップ サバエ」。この2つの場所に直営店があるのは理想といえますね。

福井・鯖江の産地ブランドをつくって
いつか「メゾン・エ・オブジェ」に出展したい。

藤井●最後に小松原さんの今後のビジョンを教えてください。


小松原●ここ10年で「メガネのまち=鯖江」というイメージはかなり認知されたと思います。ただ、どこで鯖江のメガネが売っているのかがわからなかったり、メガネ店に行ってもどれが鯖江のメガネがわからなかったり。海外製品との違いなども含め、福井・鯖江のメガネとはなんだということがまだ明確になっていません。


藤井●たしかに一般の消費者は福井・鯖江産に漠然といいメガネというイメージがありますが、それだけかも。


小松原●そうなんです。私は鯖江をメガネのバーゼル(世界最大の時計と宝飾の見本市が開催される時計業界の聖地)にしたいと思っています。「メガネといえば鯖江」と世界中から認められるために、産地ブランドをつくって、ほかのメガネとの違いを明確にしたい。だからこそ、福井・鯖江産メガネに“基準”が必要なんです。「本社所在地が福井県内にある」「各パーツの原材料が明らかである」など、認証基準をつくろうと働きかけています。


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鯖江では古く使われているエキセンのメガネ加工機。


藤井●ナポリピッツアみたいですね(笑)。実際に鯖江産といってもピンキリだったりするので、この基準をクリアしたメガネですと保証をしてもらえると嬉しい。なにより、今治タオルのように産地ブランドが生まれるのはいいことですね。


小松原●はい。実は2月末から福井にあるメガネ関連会社5社でアメリカ市場を開拓するという動きがありまして。3月に行われるニューヨークの「Vision Expo(ビジョン・エキスポ)」に我々のボストンクラブを含めて5社が出展するんです。私たちは2月23日から3日間、オプトデュオさんと一緒にニューヨークでお披露目の個展を行い、その後にビジョン・エキスポに出展します。


藤井●垣根を超えて鯖江ブランドをアピールするんですね! 日本ブランドの良さを「点ではなく面」でアピールできるのは新しい取り組みだと思います。ぶっちゃけ、ブランド同士ってお互いをライバル視しているのかと思っていました。


小松原●各ブランドには個性があり自立していているので、メンバーにはライバル心はありません。産地のために、そして自分たちのために一緒にできることはやりましょうというスタンスです。もちろん、アメリカの市場開拓だけで終わらせるつもりはありませんよ。いまの私の夢は、いつかフランスの「メゾン・エ・オブジェ」に産地ブランドで出展することなんですよ(笑)。


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藤井●「メゾン・エ・オブジェ」といえば世界的なインテリアの見本市。今治タオルや播州刃物も出展していることを鑑みれば、鯖江のメガネもありえそう。それにしても、小松原さんは自分の会社やブランドのことだけを考えているのではなく、メガネ産地の将来を考えているんですね。


小松原●ほっほっほ。自社の利益だけを考えているわけではありませんよ(笑)。これまでメガネのハウスブランドやセレクトショップの文化を30年以上やってきましたが、現状の2倍、3倍になる時代はなかなかないんですよね。これからは維持していきながら中身を考えていかないといけない。そのためには、先陣を切ってリスクをとらないと産地は衰退していくだけです。メガネづくりは鯖江の文化そのもの。私は100年後もメガネのまち鯖江であって欲しいし、次の100年に引き継いでいくことが自分の使命だとも思っています。いまはそのための道筋をつくっているんですよ。

インタビューを終えて。

漠然と小松原社長には「いい人」という印象がありつつ、何を考えているのかわからないミステリアスな人というイメージがありました。今回、鯖江でじっくりと話を聞けたことで、産地のために先陣を切って行動できるアツい方なんだということがわかりました。たまに出る「おぅっ」という返事にもアニキ感があるな(笑)と思った次第です。

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