特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:17 グラッシーズ・漆畑博紀さん

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思う存分 メガネトークがしてみたい!

そうだ、あの人に会いに行こう。

メガネのことは大好きだけど、それ以上にメガネの話をするのが好き。
そこで、これまでお世話になった人や、自分が好きな人に会いに行き、
思う存分“メガネトーク”をするインタビュー連載を始めました!

file : 17 | グラッシーズ 漆畑博紀さん

古いローデンストックの銘品が
量販店では見向きもされない!?

イメージ画像 1 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:17 グラッシーズ・漆畑博紀さん 撮影:藤井たかの

インタビューカットをお願いしたらなぜかナマステ。それでいいのかっ!

イメージ画像 2 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:17 グラッシーズ・漆畑博紀さん 撮影:藤井たかの

味のあるウッドを基調にしつつ重厚になり過ぎないクリーンな内装のG.B.ガファス渋谷。

京都・大阪・神戸・東京にアイウェアセレクトショップのG.B.ガファスとデコラを展開するグラッシーズ。昨年12月にはG.B.ガファス 渋谷がオープンしましたが、今回は同社で関東エリアの統括責任者でプレスを担当する漆畑博紀さんにお話を伺います。漆畑さんといえば、スラリと長い身長に、知的な甘いマスク、白髪に柔らかな物腰と、“腐女子の願望をすべて具現化”したような人。で、そもそもメガネ業界に入ったきっかけは?


「大学で歴史を勉強していて学芸員を目指していたのですが、なかなか狭き門で……。学生時代からメガネが好きだったこともあり、メガネ業界なら落ち着いて勉強しながら仕事ができると思い、大阪の量販店に就職しました。当時は大阪の布施と寺田町に住んでましたね」


大阪でも有数のグランジ(汚れた)な街に住んでましたね……。


「グランジって(笑)。下町が好きなんですよ、キレイな人が住む街があまり好きじゃなくて。でも、なかなか凄いところでしたよ。当時の全国ひったくりNo.1とNo.2が布施と寺田町だったみたいで(笑)。寺田町ではアパートに暮らしてたんですが、近所のおばちゃんが勝手に部屋に入ってきちゃうんですよ。『旦那が会社に行って暇やからモーニング行こか!』って、誘ってくる(笑)。そういう地域のコミュニケーションが生きているのがいいなって」


それはガチで体目当てだと思いますよ(笑)。で、なんでまた量販店からセレクトショップの世界に?


「お店のバックヤードに古いローデンストックの銘品があって、それが気になっていたんです。でも、お店の人に言ってもぜんぜん見向きされてなくて。『これカッコいいんですけど、どうして?』、と疑問に思って。ちょうどその頃、『モードオプティーク』のようなメガネ専門誌や『モノ・マガジン』や『Pen』などでコンセプト系のメガネの特集が組まれるようになって、量販店ではないメガネの世界に興味を持ちはじめました」


90年代後半の話ですよね。僕が初めてG.B.ガファス南船場でメガネを買ったのもその頃です。しかも、ガファスオリジナルブランドのデコンストラクション。スペックエスパスの山岸 誉さんがデビュー前にデザインしていたモデルですよ。


「マニアックなのから入ってますね(笑)。で、そこから、G.B.ガファスやグラスファクトリーさん、白山眼鏡さんなど、関西のセレクトショップをまわりました。当時、G.B.ガファス南船場はアン・バレンタインやウォルフガングプロクシュとかセレクトに独特な個性があって、ここで働きたいと思ったんです。2000年に入社して、G.B.ガファス南船場で数ヵ月働いた後にデコラ神戸に配属。神戸店には14年ほど勤めて、2014年春に上京して関東エリアの統括になりました」


なるほど。ちなみにノリとしては文系男子ですよね?


「もとは体育会系なんですよ。静岡出身なんで、小中高はずっとサッカーをやっていました。長身を生かして、ポジションはフォワードでした」


インドア派と思いきやスポーツもこなす。でき過ぎてるなぁ……。

原宿の若者がリンドバーグ!?
トラッドシェイプのみの偏ったセレクト

イメージ画像 2-1 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:17 グラッシーズ・漆畑博紀さん 撮影:藤井たかの

フレームの樹脂から開発したリンドバーグのN.O.Wシリーズのラウンド。

イメージ画像 2-2 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:17 グラッシーズ・漆畑博紀さん 撮影:藤井たかの

漆畑さんのお気に入りはリンドバーグ「スピリット2260」。「ツーポがいいなと思って作りました。ネジまわりがスッキリしていて拭きやすい点が気に入っています」

漆畑さんって、東京で会っても「宇ち多゛(吞ん兵衛の聖地と言われる葛飾区立石のもつ焼き店)」の話しかしないですよね。月3は行ってます?


「はい。今年も正月から“宇ち入り”して。なんかね、ああいうプロレタリアートな店に憧憬みたいなものがあるんですよ。自分が庶民だから落ち着くんです。『ずっと庶民感覚でいたい』ってのが自分の根底にあると思います」


漆畑さんが庶民ですか……セレブ臭がほんのり出てますよ。で、てっきりオシャクソな奴と恵比寿あたりの隠れ家的な店で飲んでるのかと(笑)。


「おしゃれな友だちなんかいないッスよ。地元はどうしようもないのばっかり、いつまでも彼女ができない奴とか。でもそういう奴のほうが好きなんです。気が置けない仲間というか。職業柄、サービスを大事にする仕事なので、いつも緊張をしていると思うんです。だからオン・オフの切り替えが大事なのかなと。そうそう、『宇ち多゛』のコーチィングしてくれるおじさんがまたいいんですよ」


まぁまぁ「宇ち多゛」の話ばっかりしてもしょうがないので、新店のG.B.ガファス渋谷について聞かせてください。


「そうです……か? まず、デコラと違って若いお客さんが多いのが新鮮ですね。年齢的には私もいいおじさんですが、そういう人間の言葉を若い人がとても素直に聞いて吸収してくれるんです。原宿ブティックの顔、キャシディーの八木沢さんのような、街の教科書的なメガネ店員がもっとこの街にいてもいいと思います。メガネやカルチャーについて若い人と話をしてみたいし、私たちにも新しい気付きが生まれることでメガネ文化が向上していくと思います」


セレクトを見て、おっと思ったのがリンドバーグ。リンドバーグと言えば、ネジを使わないミニマムなデザインで、ビジネスパーソンや医者とか、お堅い職業の人に人気だと思っていました。それが、オシャレ甲子園のキャットストリートの店で扱っているのが意外。ぶっちゃけ、売れるんスか?


「うちはリンドバーグでもほぼトラッドシェイプのみという偏ったセレクトですが、けっこう若い子の反応がいいですよ。リンドバーグのデザインは禅の境地というか、シンプルにデザインするのは、凄く難しいと思うんですが、それを高次元で実現しています。メガネのトレンドって、ゆるやかにアラン ミクリとかレスザンヒューマンみたいなブームがあって、クラシックの流れがきて、今はそこから進んでミニマリストが増えてきたような気がしています。メガネ好きが行き着く所はああいうところって気はしますね」


いいブランドですよね。去年、雑誌でリンドバーグCEOのヘンリック氏にインタビューしたんですが、デザインや機能に対するこだわりが半端じゃなかった。ひとつの質問に対して20分以上ぶっ通しで話をして、合間がないから通訳の人が困ってましたよ(笑)。で、今のメガネトレンドって“気分”が重要だから、心地いい言葉をつなげてそれっぽいメガネを作るブランドもあるんだけど、そんなところとは次元が違って本気で物づくりに取り組んでいる姿勢がビシビシ伝わってきました。そういうところがメガネファンに刺さるのかなと。ぜひこれからも若者にもリンドバーグの良さを伝えて下さい!

「これでいい」ではなく「これがいい!」
量販店のメガネで満足できない人が増加中

イメージ画像 2-1 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:17 グラッシーズ・漆畑博紀さん 撮影:藤井たかの

G.B.ガファス渋谷が提案する新ブランドのアレム。フランスのメガネ生産地であるジュラ地方の職人がハンドメイドで作っています。

イメージ画像 2-2 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:17 グラッシーズ・漆畑博紀さん 撮影:藤井たかの

こちらは1878年にフランス創業という長い歴史をもつ、クレモントガバナーのケーブルテンプル。

将来のビジョンとかやりたいことってあります?


「ファッションとしてのメガネという文化を発展させたいです。2〜3年前までは3プライスや量販店の勢いが目立っていましたが、最近は3プライスでメガネを購入した方が、もっといいメガネを掛けたいと思ってセレクトショップに戻ってきていると感じています。世間のメガネに対する価値がすべてそちらに流れていくのは不本意ですし、カウンター的な立場のアイウェアショップの砦として、私たちが考えるメガネの価値を発信し、“カッコいいメガネ”と判断される基準に私たちの目がモノサシになっている状況をつくっていきたいと思っています」


でも、今は中国の技術が上がっていて、以前より安いメガネと高いメガネの違いがわからなくなってますよね?


「パッと見のディテールはちゃんと見る人じゃないとわかりません。だからこそ、僕ら販売員はお客様から違いを聞かれたらビシっと答えられないといけない。安く買えるメガネとここで買う高いメガネのなにが違うんだろうと思っている方に、クオリティの違いや納得のいくストーリーが語れるかが重要だと思います。3プライスなどが全盛の頃はお客様心理として、まわりは安いメガネだし、とりあえず『これでいいか』っていう気分でメガネを選んでいた人も多かったと思います。でも私たちは『これでいい』ではなく『これがいい!』と思ってメガネを選んでほしいのです。その価値が、私たちがセレクトするメガネには必ずあると信じています」


漆畑さんも僕もこの業界に足を踏み入れたのは「これがいい!」っていうメガネに出会えたからなんでしょうね。そういう吸引力のあるメガネやショップが注目されて、メガネにこだわることが重視される時代にしていかねばです。最後になぜ渋谷と原宿の間という立地に出店を?


「ここは日本でも有数のファッションの街ですが、実は私たちの店はキャットストリートの最末端。地図で紹介されているキャットストリートには厳密にいえば載っていません(笑)。もっとおしゃれメガネ人口を増やしたいと思っている一方、そのためにはニッチでいなければならないという考えもあるわけです。キャットストリートの脇から常に「そのメガネはおしゃれか?!」という、カウンターを狙っているのがG.B.ガファス渋谷のスタンスです。だからこそ、メガネ談義しにいろんな人に来ていただきたいのです」


「キャットストリートの端っこでメガネを叫ぶ」と。……ぜんぜん上手くないですが、メガネ談義の続きは「宇ち多゛」でやりましょう!

インタビューを終えて。

漆畑さんって独特のオーラがあって近寄りがたい雰囲気バリバリでしたが、わざわざ寺田町に住んでいたり、「宇ち多゛」に通っていたりと、人間味あふれる一面があってほっとしました。メガネに関しては、インタビューのとおりでございます。いたって真剣で勉強熱心、業界のことを俯瞰して考えています。また、いろいろメガネのことを教えてください!

G.B.Gafas SHIBUYA (G.B.ガファス渋谷)

  • 住所|東京都渋谷区神宮前6-18-2 グランドマンション原宿1F
  • 電話|03-6427-6989
  • 営業|11:00〜20:00 火曜休み(祝日の場合は翌日休業)
  • http://www.glasses-co.jp/gafas/
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