特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:01 OBJ 柳島邦門さん

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思う存分 メガネトークがしてみたい!

そうだ、あの人に会いに行こう。

メガネのことは大好きだけど、それ以上にメガネの話をするのが好き。
そこで、これまでお世話になった人や、自分が好きな人に会いに行き、
思う存分“メガネトーク”をするインタビュー連載を始めました!

file : 01 | OBJ 柳島邦門さん

登山家は山に登らないと
山のことはわからない。

イメージ画像 1 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:01 OBJ 柳島邦門さん 撮影:藤井たかの

京都・大阪・銀座で3店舗を展開するOBJのオーナーである柳島さん。僕が初めてお会いしたのは2004年、関西のファッション誌「カジカジ」でのお仕事でした。

イメージ画像 2 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:01 OBJ 柳島邦門さん 撮影:藤井たかの

オリジナルの「obj water inspired by N4」。クリップオンはレンズ脇2カ所を留める仕組みで、βチタニウム製の中央のバーを押さえると簡単に外れる。これは正直、使いやすい。

ときにはメーカーに辛辣な意見を言い、雑誌の原稿にダメ出しすることもしばしば。まわりから伝え聞くOBJ・柳島邦門さんは“怖い人”である。しかし、僕が知っている柳島さんはものすごく腰が低くて丁寧な人だ。そして、会う度にほとばしる情熱でメガネについて語る。例えばこんな具合に……。

「あのね、藤井さん。メガネで重要なのはバランスです。例えば、このピー(自主規制)のボストンは、玉型は凄くキレイですよ。でもこうやって(メガネを額の上にひっかける)やると落ちる。それはテンプルのしなりが足りないから。総合的にメガネを見て、シンプルに突き詰めて考えているブランドが少ないんです。こないだ見たピー(自主規制2)もヒドかった。あの造りで3万円代はないで」

……やっぱり辛辣かも(笑)。とはいえ、何も間違ったことは言っていない。逆にこの厳しい審美眼があるからこそ、20年以上にわたりメガネ業界をリードする存在でありえたと言える。1991年に京都に創業したOBJは、日本のメガネブームの黎明期を支えたセレクトショップの先駆け。98年からはオリジナルフレームを作り、これまで「グッドデザイン賞」を複数回受賞している。

「僕もともとショップオリジナルって嫌いやったんですよ。セレクトやってるんやから、セレクトすればええやんと。ただ、当時の市場にほしいものがなかった。だから『ないものを作ろう』と始めたんです」

オリジナルフレームはヒンジのネジから開発するこだわりよう、柳島さんはとにかく凝り性だ。そして会うたびに「この部分にあの素材を使おうと思ってるんや」と少年のように目を輝かせて話す。また、ちょっと意外だったのが、柳島さんがいまも店に立っていることだ。いわゆる“大御所”と呼ばれる方はあまり店に立たないと思っていたので……。

「普通はある程度になったら他のスタッフに店をまかせるでしょう。でも、登山家であれば、山に登らないと山のことはわからない。山の温度や湿度などを肌で感じてこそ、いま山に登るために必要な道具がわかる。同様にお客さんと接していないと要望はわからないと思うんです。それがフィードバックされてオリジナルに活かされています。モノだけ作っているとデザインは独りよがりになるけど、実際にお店で売ってみると『ここはあかん』っていうのが身にしみてわかる。お客さんとのやりとりからいろんなことを教えていただくんですよ」

なぜロン・アラッドのアイウェアを
“ガッツリ”仕入れたのか?

イメージ画像 2-1 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:01 OBJ 柳島邦門さん 撮影:藤井たかの

ロン・アラッドの「A-FRAME」。A型のブリッジは後ろのネジを外すと、上下に動かせる。ブリッジは三カ所で固定でき、レンズが左右にスライドする仕組み。画像引用(pq-eyeware)

イメージ画像 2-2 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:01 OBJ 柳島邦門さん 撮影:藤井たかの

柳島さんが今いちばん気に入っているメガネは、オリバーピープルズの80年代のデッドストックモデル「OP-190」。「この時代のオリバーピープルズがいちばん好きなんや」

柳島さんに聞きたかったことがある。英国モダン・デザインの巨匠、ロン・アラッドが手掛けたアイウェアについてだ。ユニークだけど「売れない」というのが概ねの業界の評価で、仕入れたショップは少なかった。だが、OBJは仕入れた。それもガッツリと。

「これまでいろんなメガネを見てきましたが、久々にモノを見てエキサイティングしました。小手先じゃなくて、物事を本質的にとらえて新しいことにチャレンジしていると感銘を受けたんです」

例えば、ロン・アラッドの「A-FRAME」は、「世界中で人間の顔が違うのになぜメガネ(特にフロント)のデザインは同じなのか?」という着眼点から、左右のレンズ幅をテンプルで調整できる新機構を開発。これまで当たり前と思っていたところに疑問をもつところに、「これこそデザイナーの仕事だ!」と、僕なんかは多いに興奮したわけです。ただ、お店としての問題は仕入れても売れるかどうか……。

「自分が好きやと思ったものの方がお客さんに提案しやすいでしょう。逆に世間がいいと言っても、自分がいいと思わないものは売りにくい。これはすごく重要なことです。ロン・アラッドは汎用性のあるデザインではないし、価格も高いですが、そこは自分がいいと思ったブランドやから自信をもって仕入れるんです。確か30本ほど仕入れましたが、あと1本しか残っていません。建築家の方などいろんな人がわざわざ見に来て、買ってくれましたよ」

日本でメガネのハウスブランドがほとんど認知されていなかった90時代初頭。ショップスタッフが自ら惚れ込んだブランドについて熱く語り、プレゼンテーションすることでその存在が広まっていった。なんてことを柳島さんの話を聞いて思い出した次第なのだ。

インタビューを終えて。

メガネ店の取材に行くと、たまに「取材中にお客さんぜんぜん来なかったけど……だ、大丈夫?」とよからぬ心配をしてしまうことがあります。ただOBJに関してはそういったことは一度もない。常に客で賑わっているというよりも、わざわざOBJまで来て買いたいというお客さんがしっかりといる。それは柳島さんがお店に立ち続けていることにも起因しているのだと思う。

OBJ (オブジェ)

  • 住所|京都市左京区一乗寺野田町2--2 ハイツ白川1F
  • 電話|075 - 711 - 6109
  • 営業|11:00~20:00 無休 ※12/31~1/4の年末年始を除く
  • http://www.obj.co.jp/index.html
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