特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:04 YELLOWS PLUS・山岸稔明さん
思う存分 メガネトークがしてみたい!
そうだ、あの人に会いに行こう。
メガネのことは大好きだけど、それ以上にメガネの話をするのが好き。
そこで、これまでお世話になった人や、自分が好きな人に会いに行き、
思う存分“メガネトーク”をするインタビュー連載を始めました!
file : 04 | YELLOWS PLUS 山岸稔明さん
仮にいろんな Pコートがあったとしても
自分のブランドが選ばれてほしい。
「メガネのデザインって1人歩きしている感があるんです。例えば、時計やコスメ、アパレルって多少は連動して動いている部分がありますよね。でもメガネに関しては、昔から違う方向に独立して1人歩きしている感があって。自分はなるべくファッションの世界と連動してデザインしていきたいと思っていました」
2001年にデビューしたイエローズプラスは、日本を代表するドメスティックブランドだ。デザイナーの山岸稔明さんは、メガネのトレンドが機能重視だった時代から、ファッションからのアプローチやリンクを大切にしてきた。そして世界的なクラシックブームが巻き起こった今、“二番煎じ”ではなく欧米ブランドと“時差のない”デザインを生み出している。でもぶっちゃけ、クラシックブームで玉型がシンプルになってから、似たようなメガネが多過ぎませんかね?
「例えば、Pコートを作ってもデザインはある程度決まっているから、似通ってきますよね。でも自分はここのPコートが欲しいとかってあるじゃないですか。たとえ世の中にいろんなPコートが出回っても、『やっぱりこのブランドのものが欲しい』、そんな風に言ってもらえるようなブランドにならないとダメなんだろうなって思います」
なるほど、確かにPコートも質感やシルエット、ボタンひとつとってもぜんぜん違います。ところで、いま山岸さんが気になるブランドってあります?
「マイキータかな。彼らって玉型だけでトレンドや時代感を作ってファッションに落としこんでいく。それって凄いと思うんです。自分、トレンド感は玉型で作れると思っていて、彼らは忠実にその路線で突っ走っていて、“余計な小細工”をしない。デザインしていると不安もあって小細工をきかせたくなるものなんです」
ほうほう、“余計な小細工”とは?
「小細工って言うと語弊があるけど、例えば、過去で言うと職人ブームのときにセルロイドや職人の名前を使ってしまったり。デザイナーとしてはこういう流行にのらないと“怖さ”があるんですが、自分はセルロイドは絶対に使わないって決めました。でも武器はない。そこでレザーに出会ったんです(2003年にレザーテンプルのコレクションを発表)。何かを固くなに拒むことで、別の何かが見えてくると思うんですよ」
NYのロバート・マーク10店舗で
イエローズプラスの取り扱いが決定!?
「実はブランドがデビューした2001年のコレクションは気負いもあって、本当に作りたいものじゃなかったんです。当時は“機能性ブーム”で、鯖江のハイテク素材や掛け心地といったキーワードを前にもってきてしまって、それが居心地が悪くて……。自分、もともと『カトラー アンド グロス』や『カーク オリジナルズ』のプラスチックフレームが好きで集めていたんです。そこで、自分が好きなクラシックでいこうと、2002年にコンセプトを修正して、2003年にリスタートしました」
僕がイエローズプラスの存在を知ったのも2003年。スマートな彫りを施したメタルテンプルやレザーテンプルがとても斬新でした。ところで、当時からIOFT(日本最大のメガネ展示会)に出展しなかったのはなぜですか?
「ブランドを立ち上げたときにお金がなかったんですよ(笑)。あの頃は同期でデビューしたブランドがたくさんあって、みなさんIOFTに出展していたんですが、うちはお金がなくて……。当時、IOFTに出ているブランドが凄くうらやましかったですね。ただ、ずっと1社で展示会をやってきたので他力本願にならなかったのが良かったかも。1社で展示会をやることの怖さがないんです」
それも意外! てっきりお洒落スポットでスノッブなスタンスでやっていると思ってました(笑)。じゃあ、置く店はどういう風に決まるんですか? 特に海外。
「今は自分が置きたい店に卸したいと思っています。フィンランドで置きたいって言ってくれた店があったんですが、実は自分がフィンランドに卸したい店が別にあって。だから来てくれても断っています。フランスもアメリカも同じやり方です。何年も前からNYのお店からオファーがあったけど、お断りしてきました」
ということは、アメリカでの取り扱いはまだないんですね。
「いえ、実はこないだロバート・マークとの取引が決まったんです。NYの全10店舗でイエローズプラスを取り扱ってもらえることになって、その契約で春にNYに行ってきました」
これはスクープです! ロバート・マークと言えば、“世界で最も有名”とまで評されるセレブやエグゼクティブ御用達のメガネ店。今後がすごく楽しみです。
「大切なのはどこまで自分のスタンスで商売を確立できるかだと思います。自分は大きくすることだけが良いことではないと思っていて、それよりもいかにやりたいデザインでビジネスとして成立させるかに重点を置いています。そのスタンスは日本でも海外でも変わりません。正直、ビジネスにスピード感はないですけど、それぐらいの方がうちのスタンスにはあっているのかな(笑)」
インタビューを終えて。
山岸さんは「大人」である。僕がメガネライターを名乗り、このサイトを立ち上げたことを報告したときも、こんな風に言ってくれました。
「嬉しいですね。メガネを知らない方が取材に来られると、まずブランドの説明をしないといけなくて、話が前に進まずに後退していく感じなんです。メガネ専門のライターさんが増えてくるのは、業界の前進というか成長を感じます」。山岸さんは業界人にありがちな噂好きではないし、余計なコメントもしない、でも閉鎖的でもない。常にニュートラルで、かつ広い視野で物事を見ていてる。そんな気がします。