特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:15 Bobby Sings Standard,・森山秀人さん

特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:15 Bobby Sings Standard,・森山秀人さん_メイン画像

思う存分 メガネトークがしてみたい!

そうだ、あの人に会いに行こう。

メガネのことは大好きだけど、それ以上にメガネの話をするのが好き。
そこで、これまでお世話になった人や、自分が好きな人に会いに行き、
思う存分“メガネトーク”をするインタビュー連載を始めました!

file : 15 | Bobby Sings Standard, 森山秀人さん

ゴルチエの仕事に携わりたくて
アイウェア業界に入った。

イメージ画像 1 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:15 Bobby Sings Standard,・森山秀人さん 撮影:藤井たかの

森山さんが掛けているのはダンヒルの70年代ヴィンテージ。シブい。

イメージ画像 2 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:15 Bobby Sings Standard,・森山秀人さん 撮影:藤井たかの

ブランド初期のサングラス、「showroom dummies」は80年代にRUN-D.M.Cが着用したウルトラ「ゴライアス」のオマージュ作。シブい。

今回はその日本人離れしたからオーラから、僕が勝手に“外人”とジャンル分けしている、Bobby Sings Standard,(ボビーシングススタンダード)のデザイナー、森山秀人さんです。2010年にサングラスブランドとして始動した同ブランドは、2013年に初のオプティカルコレクションをリリース。ジャーナルスタンダードやNuGgETS(ナゲッツ)などの、アパレルショップやブランドともコラボする業界の注目株です。ところで前から聞きたかったんですけど、森山さんはヒップホップに傾倒した感じですか?


「そういうわけでもなくて、1970年代中盤のヒップホップ黎明期のファッションや音楽など、その頃のムードが好きなんです。自分でも70年代前後のヴィンテージフレームが好きで、色付きのレンズを入れて掛けたりしていました。なのでヒップホップにどっぷりってわけではないんです」


昔は日本語ラップを歌ってたとか、黒歴史はないんスかね?


「はっはっはっは。ないですね」


あっても困りますよね〜。たしかブランドを立ち上げる前はインハウスのアイウェアデザイナーだったんですよね。


「はい、でもずいぶん昔なんですよ。アイウェアメーカーに就職したのが1989年。服飾専門学校を卒業してバイトをしていた頃に、『流行通信』を見ていたら、たまたまゴルチエのメガネの広告が載っていたんです。ぼく、ゴルチエが好きで服飾の専門学校に入ったんで、『ゴルチエのメガネあるんだ!』って驚いて。その広告の下の方に小さく、『企画・デザイナー募集』って書いてあったんです。特にメガネ好きでもなかったんですけど(笑)、ゴルチエの仕事に携われるなら面白いと思って、軽い気持ちで応募したんです。その会社でゴルチエやイブ・サン・ローランといったヨーロッパのライセンス系のメガネのデザインをしていました」


ゴルチエが好きで業界に入って、ゴルチエのメガネをデザインできるなんて幸せ過ぎます。当時のゴルチエって攻めてましたよね。パンチング入りのフード付きサングラスとか、映画『ブラック・レイン』で松田優作が掛けたサングラスとか。


「攻めたデザインしかなかったですね。僕は1998年に会社を辞めて、10年ほどフリーのアイウェアデザイナーとして活動し、デザイナーとしてのキャリアが20年になったときにブランドを立ち上げました」


日本のメガネ業界って、90年代にハウスブランドを始めたファースト世代があり、その世代を見て業界に入ってきたセカンド世代があって、さらに、アヤメの今泉くんみたいに「メガネ業界のことぜんぜん知らないっス」みたいなノリでファッションを入口として入ってきたデザイナーや、“小商い”的に身の丈にあったスモールサイズのお店をつくるサード世代があると思うんです。で、森山さんが面白いのは、やってることはサード世代だけど、実はファースト世代っていう(笑)。


「キャリアだけは長いですから。いま表参道のソラック・ザーデさんで、ゴルチエの90年代のヴィンテージを置いているんですよ。で、フレーム見たら『あっ、これオレがデザインしたやつだ』ってのが結構あって(笑)。もう20年以上前なんでヴィンテージにカテゴライズされるのかって、嬉しかったり、悲しかったり」


まさにリビング・レジェンドだ(笑)。

メガネはファッションのなかでは主役にはならない。
それを忘れないように心掛けている。

イメージ画像 2-1 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:15 Bobby Sings Standard,・森山秀人さん 撮影:藤井たかの

「NuGgETS(ナゲッツ)」とのコラボモデルのイメージビジュアル。マットブラックにイエローレンズの組み合わせもシブい。(画像提供ナゲッツ)

イメージ画像 2-2 特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:15 Bobby Sings Standard,・森山秀人さん 撮影:藤井たかの

森山さんのお気に入りは「BRX-06」。「メタルブロウは金型をオリジナルで作成してつくりました。プレスだから出る雰囲気があると思います」

話が飛ぶんですけど、今トレンドのメガネってどれも似てるじゃないですか。去年の秋の展示会では座彫りのコンビやソフトセルだらけで、「このメタルリム違うブランドで見たんじゃね?」みたいなのもあって、ブランドロゴを消したら見分けがつかなかったり……。一度に量を見ているせいもあるけど、パーツまで似たフレームが多いと記憶に残らないんですよ。そんななか、ボビーのフレームは、フロントサイドや上リムの攻め具合が気持ちいというか、エモい(エモーションの方)。色彩は違うけど、ジェレミー・タリアンに通じるものを感じます。


「デザインするときはヨーロッパのヴィンテージフレームがもつ、趣やムード、質感などを凄く参考にしています。普通はガラに入れて研磨してカドを落とすぐらいのところを、ブロウの所に面取りを入れたりすることで違う角度で見たときに表情が生まれるんです。ヨーロッパの太目のヴィンテージとかはそういうデザインが多い。逆にアメリカのヴィンテージは細身で、メタルの彫金の細やかさとかにこだわりを感じますが、僕は70代のヨーロピアンヴィンテージのフォルムや質感の豊かさが好きで、そこをしっかり表現したいんです」


なるほど。ところでメタルフレームはつくらないんですか?


「今回、初めてつくったんですよ。秋の展示会で発表します」


細身で雰囲気のある丸メガネとか? 売れ線狙いで(笑)。


「実はカールトンタイプです。今年4月にメタルブロウにプラリムがぶらさがっているアムール・スタイルの新型を出したんです。イブ・サン・ローランが掛けていたカタチで」


『イブ・サン・ローラン』の映画で掛けてましたよね。予想以上に“濃厚なホモ映画”で……。


「……いや、ポイントはそこではなくて。そのときのパーツも使って、ヒトヒネリ加えたメタルフレームをつくったんです」


——と、ここで特別に新作を見せてもらいましたが、これがお世辞抜きで面白かったのでさっそく写真を……。


「すいません!! 秋のシルモ発表なんでメディアにはまだ写真に載せられないんですよ」


大丈夫ですよ、僕のサイトなんて親族ふくめて8人くらいしか見てないですから!


「いや、ホントにダメなんです……」


ダメッスか……久々にメガネを見てテンションが上がったのに残念。それにしても、丸メガネじゃないところがいいッスね。


「こないだ台湾行ったときにも思ったんですが、やっぱり今は丸やボストンなんですよね。日本のマーケットもそれがいちばんほしい」


秋の展示会では丸メガネが増えてくると思うんですよ、それが想像がつくというか……。でも、メガネ好きとしては雑誌のトレンドやマーケティングを打ち破るメガネを見たいんです。「やっぱりね」、ではなく、「そうきたか」と思いたい。


「丸はいろんなブランドさんがやるでしょうね。洋服と一緒で、今いちばん売れるボリュームゾーンを狙うのは、ある意味商売としてはまっとうなやり方だと思います。でも、うちみたいなインディペンデントなブランドは同じことをやっても結局飲み込まれるだけだし。うちも同じようなことをやれば商売的には今より売れたりすることがあるとは思うんですが、これだけクラシックフレームがあったら、『別にうちがやんなくてもいいかな』とも思ってしまう。それなら、今ないところを探してつくってく方が、ブランドとして面白く見てもらえたり、受け入れられる部分もあるんじゃないかなと思います」


いいッスね、その考え。さっきメタルフレームを見た後だから、説得力があります。にしても、森山さんって独特の雰囲気がありますよね。これまでのメガネ業界にはいないタイプ。


「入り口が洋服からというのもありますが、あまりメガネに入り込んでいないからかも知れません。僕は常に“たかがメガネ、されどメガネ”って思っています。メガネはファッションのなかでは主役にならない、たかが小物のひとつだと思っていて、それを忘れないように心掛けているんです。メガネが好きでメガネだけにフォーカスしてしまうと、俯瞰して見れなくなるでしょう。ただ掛け心地を含めたプロダクトデザインとしての完成度には徹底的にこだわります。そこには長年アイウェアに携わってきたキャリアが反映されていると思うし、それこそが自分にとっての“されどメガネ”なんです」


なるほど、故に“されどメガネ”。ちなみに僕もメガネライターと名乗りながらも、別の原稿も書いているのは引いて見れなくなるのがイヤだから。あと、しがらみにとらわれて好きなことを言えなくなるのがいちばんヤダ(笑)。


「ホント好き勝手に言ってますよね(笑)」


あ、はい。と、とにかく森山さんはこれからもヨーロッパの“濃厚なホモ映画”を参考に……じゃなくて、ヨーロッパのヴィンテージを軸としたシブいメガネで僕らをワクワクさせてください!

インタビューを終えて。

森山さんほど見た目と中身のギャップが大きい人も珍しいと思います。あんなに強面なのに、非常に穏やかで、僕のデタラメなトークにも笑いながら付き合ってもらえましたよ(目は笑ってなかったかも)。キャリア25年で80年代からメガネに携わっている森山さんだからこそ、今の時代にあいつつも、“それだけで終わらない”メガネがつくれると期待しています!

Bobby Sings Standard,

Bobby Sings Standard, イメージ

メガネ連載