日本のメガネブランドSTEADY金子昌嗣さんに聞く。 フランスのシルモ2019、3年目の挑戦。
メガネコラム : 026
日本のメガネブランドSTEADY金子昌嗣さんに聞く。 フランスのシルモ2019、3年目の挑戦。
ここでは世界の舞台に挑戦する日本の人気メガネブランドを紹介します。
フランスのメガネ国際見本市「SILMO Paris(シルモ・パリ)」に3年連続で
出展するSTEADY(ステディ)のデザイナー、金子昌嗣さんに話を伺いました。
新しいことにチャレンジして
あえて自分を追い込む。
「メガネ業界に入って30年、今年で50歳になりましたが、自分もデザインも一度“白紙”に戻さないと、いい流れは“循環”してこないと思うんです」
そう話すのはSTEADY(ステディ)のデザイナーである金子昌嗣さん。STEADYは2012年に創業した日本のアイウェアブランドで、モダンクラシカルをベースにしながらも軽快かつクリーンなデザインで、じわじわと人気が急上昇中です。
金子さんは日本のメガネ産地である福井県の出身。鯖江でオリジナルフレームを企画販売する株式会社ノバでメガネ作りを10年ほど学び、2000年に東京の株式会社バウハウスへ移り、SOLID BLUE(ソリッドブルー)やHUSKY NOISE(ハスキーノイズ)といった人気ブランドを立ち上げます。その後、独立してSTEADYを立ち上げました。
「STEADYはいま国内で100店舗くらい取り扱いがあり、香港、韓国、台湾などにも顧客を得て、アジアの商圏が固まってきました。そこで2017年に、シルモへ出展しようと思ったんです。実は10年に1回くらいマンネリを打破するために、新しいことを立ち上げて、自分を追い込みたくなるんです(笑)」
「SILMO Paris(シルモ・パリ)」は、フランスで毎年秋に開催される世界最大級の国際見本市であり、名だたるブランドが集結して新作を発表するメガネバイヤーの聖地。日本からもYELLOWS PLUS(イエローズプラス)やYUICHITOYAMA.(ユウイチトヤマ)、MASAHIROMARUYAMA (マサヒロマルヤマ)といった、人気のクリエイター系ブランドが数多く出展しています。
「自分がこれから勉強して行くなかで欠かせない場所と思ったのがフランスのシルモでした。シルモに出展して自分のデザインが欧米の人たちに評価されるのかを試してみたくなったんです。まずは、決意として『ドン』と自分の報酬を下げました。海外に出て行くことで刺激を受けるのがいちばんの目的なので、焦って売るようなことはやめようと。とりあえず3年は出展してみよう、と2017年からフランスのシルモ、それとイタリアのミド展に出展したんです」
自分の報酬を下げるって、なかなかできることじゃないですよね。
「初年度は売り上げを考えないようにしたかったんです。いくつかの代理店や小売店から取り扱いのお話をいただきましたが、自分はヨーロッパでの商売ははじめてだし、まだ勝手もわかりません。1年目は様子見として、展示会やバイヤー、国ごとの違いなどを感じて、日本に帰ってからいただいた名刺を確認しながら考えました」
海外出展の1年目を市場調査と割り切れるところがすごいですね。普通なら「出展にこれだけ金がかかっているから、行ったからには元取るぜ」、みたいになりそうですけど。あっ、だから自分の報酬をガッツリ下げたんですね。下げた分を展示会の費用にあてられると。
「ええ、その通りです。これは経営者にしかできない判断ですが、自分の報酬下げたことですごくラクになりました。ただ、初年度は欧米のお客さんはほぼゼロだったんです。これは精神的にかなり凹みましたけど(笑)」
2年目のシルモから大きな変化が
欧米での取り扱いがガンガン決まる。
1年目のヨーロッパ進出は市場調査や自分への刺激と割り切って、売り上げはほとんどゼロ。となると、2年目はかなり力が入ったんじゃないですか?
「正直すごい不安でした。でも2年目の2018年からガラリと流れが変わったんです。2017年のミド、シルモ出展のときにSTEADYのことを気になっていたバイヤーやエージェントが、2018年の出展で出展しているのを見て、ブースをのぞいてくれたんです」
バイヤーからすると「2017年に会場で見かけて気になっていたけど時間がないから見れない。で、2018年もシルモに出展していたから入ってみた』という感じですかね。2017年からミド、シルモ、ミド、シルモと4回出展していれば、顔もブランドも覚えてもらえますよね。何度か見ているブランドなら安心感が湧きそうです。
「そうなんです。展示会に出続けることによって、『去年も出てたよね』って、ブースに来てくれて商談が決まって。2018年には、以前から話をいただいてたアメリカのエージェントと契約して、ニューヨークを中心に23店舗での取り扱い決まり、ヨーロッパではフランス、ドイツ、ベルギー、スイス、イスラエルの小売店が決まりました」
2年目でそれだけの成果とは、すごい。メガネに限らず、日本の伝統工芸や工業製品を海外の展示会に出展するときに、出展自体が目標となって、あまり準備をせず“打ち上げ花火”で終わるケースもあると思うんです。金子さんは1年目を市場調査や自分への刺激に割り切ったから、2年目から結果がついてきたんですね。
『孤独』や『自力』こそが
シルモで感じられた魅力。
ところで、べたな質問ですがシルモに出展した感想は?
「フランスって、デカいなって(笑)。自分の存在がぜんぜん知られてない状況で、みんなが『孤独』のなかで戦っていて、シルモのそんなところが好きだなって思いました。日本だと、どうしても“なあなあ”な部分があるんですが、フランスは孤独で『自力』でやらないといけない」
確かにシルモに出展している日本ブランドは孤独のなかで戦ってますし、現地のバイヤーも自分の考えを強くもっていますね。では、どういったときに「自力でやらないと」、と感じましたか?
「たとえば日本でメガネ関係の方に名刺をもらった場合、知り合いに聞けば、企業や業務内容、人物などだいたいの情報がわかります。でも、フランスで名刺をもらってまわりの日本人に確認しても知らないことが多い。10年以上シルモに出展している先輩に聞いてもわからないことが多くて。ああ、本当に一から『自力』でやっていくしかないんだって感じました。経験を積んでいくしかなくて、それは自分としても望むところですね」
異国での孤独な出展経験が自分への刺激になったと。
「もちろんです。メガネ業界に入って30年、今年で50歳になりましたが、ここまでくると何をやってもなんとかなってしまうじゃないですか(笑)。前の会社はデザイナー兼取締役で、ある程度のことは頼めばまわりが協力してくれて、できてしまう。でも、頼るものがいない孤独のなかに自分を落とし込むと、そこで勉強しないといけない、悩まないといけない、考えないといけない。それがスキルアップにつながると思うんです。やっぱり、未知の世界に入っていかないとダメなんですよ」
それ、激しく同意です。僕はライターになって20年、シルモの取材も今年で4回目になりますが、ちょっと新鮮味がなくなってきて……。2019年のシルモはこういう切り口であそことあそこを取材してと、想像がついてあまりテンションが上がらなかったんです。
なので、今年は「動画」でシルモを取材することにしたんです。動画ならこれまでとは違うアプローチで伝えられるし、まだ掘り尽くされてないし、未知の領域だから一から勉強しないといけない。いま、動画撮影用の機材を調べてますが、楽しくてしょうがない(笑)。
「動画は伝わるものが違うから、面白そうですね。なにより、その欲求こそが大事なんですよ。自分が次のシルモでいちばん感じたいのは今後のデザイン性やビジョンなんです。それはメガネのデザインだけじゃなく、webやカタログの見せ方やブランドのディレクション、コミュニケーションなどすべてにおいて。そうそう近々、webもリニューアルするんです。欧米にも向けて発信するには、いまのwebじゃダメだなと思って。2017年からシルモに出展して、徐々に自分の感覚が変わり、視野が広がってきました。本当にいい“循環”になってきたし、今年もかなり変わると思いますね」
■BRAND
- STEADY
- http://www.steady-2011.com
■Silmo Paris information
- 2019年は9月27日(金)〜9月30日(月)まで開催
- 「Silmo Paris(シルモ・パリ)2019」
- https://en.silmoparis.com/
- シルモの日本語版Facebookページ
- 「Silmo Paris」
- https://www.facebook.com/SilmoJapanOfficial/?fref=nf
- シルモのエントリーも手伝ってくれる
- 「フランス見本市協会」
- http://promosalons.cc
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