メガネコラム : 014 [シルモ行こうぜ!②]ブランドの世界基準を知るために……ポンメガネ松沢文平

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メガネコラム : 014

[シルモ行こうぜ!②]ブランドの世界基準を知るために……ポンメガネ松沢文平

1967年からフランスで開催されているメガネの国際見本市「Silmo Paris(シルモ・パリ)」は、世界の名立たるハウスブランドが集結するメガネバイヤーの聖地。かくいう自分は2006年に取材したことがあり、今年は10年ぶりに行こうかな……ということで、急遽シルモ連載をスタート!第2回はポンメガネの松沢文平さんに話を伺います。

マーケティング主導になりがちな日本、
ブランドをフラットに見たかった。

埼玉県の大宮と浦和に店を構えるポンメガネは、地方ながらも他府県からメガネ好きが集う注目のお店。特にセレクトのセンスがいいと好評で、ポンメガネの松沢文平さんは2014年に初めてシルモに行ったとか。なぜシルモに行こうと思ったんですか?


「日本だけでブランドを見ていると、かたよってくるというか、フラットに見えていないと思って。日本で仕入れる海外ブランドも、結局は代理店などを通して入ってくるので、その時点ですでにマーケティングされているというか、バイアスがかかっています。加えて、お店側も売れそうなモデルや雑誌に載っているブランドだけを仕入れていると、どの店も同じような商品構成になってくるのかなって」


それはブランドがカブってくるってこと?


「そうです。どこでも同じ物が買えると、ポンメガネのオリジナルティがなくなるというか。自分たちのアイデンティティを打ち出すためには、日本を見ているだけでは限界があって、海外も見て仕入れたほうがいいと思い、『じゃあ、シルモ行こう!』ってなったんです」


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10年前に僕が初めてシルモに行ったときに、川岸くん(ポンメガネのオーナー故・川岸剛気氏)と出会ったわけですが、元々ポンメガネは「海外のブランドを自分たちの目で見よう!」ってマインドがあったわけですよね? でも、ここ数年はシルモには行っていなかったし、もっと言うと海外にあまり目を向けてなかった感じがしました。そのあたりどうですかね?


「それは国内で満足できていたからですね。日本のなかでちゃんと満足できる商品が見れていれば、海外に行かないときがあってもいいと思うんです。ただ、お店の色を出したいとか、差別化したいときは、外に目を向けたほうがいい」


なるほど。正直、ヨーロッパのブランドに興味がなかった時期ありませんか? 7、8年くらい前とか。


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「……ありますね。ただ、ヨーロッパのブランドはアレンジをきかせるのが上手いから、今ちょうどいい時期というか。クラシックフレームはどこでも真似できちゃうので、その意味ではヨーロッパのブランドのほうが新しいデザインを打ち出していると思います」

海外でイケてるブランドと
イケてないブランドがわかる!?

初めてシルモに行って、どんな発見がありました?


「ブランドのポジショニングがわかったというか、日本ではそうでもなくても海外では人気や勢いがあるブランドを知ることができました」


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ああ、なるほど。ここがイケているとか。勢いを感じたブランドってどこですか?


「アン・バレンタインやレスカ、テオ、マイキータあたりかな」


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逆に思ったよりショボかったところは?


「いや、言えないっすよ〜(笑)。記事にしちゃうんでしょう。でも○○○○はイマイチでしたね、ブースの場所も悪いし……」


ああ、やっぱり……。


「改めて日本ブランドの良さが知れたのもよかったですね。YELLOWS PLUS(イエローズプラス)は予約制だったんですが、ひっきりなしに人が入っていて。ああいうキレイな形やディテールの良さの“日本のわびさび”みたいなデザインが、フランスで認められているのが驚きでした」


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イエローズプラスのコンビフレーム


「対照的だったのがFACTORY900(ファクトリー900)。オープンなブースで誰でも見れるつくりだったから、いろんな人が珍しいデザインを見つけて足をとめていました。他ではつくれないデザインがフランスでも受けているなと」


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ファクトリー900の跳ね上げ式


「あと、増永眼鏡のブースが大きくて人気も凄かった。うちはシルモに行って増永の凄さを知って、MASUNAGA designed by Kenzo Takadaを仕入れることにしたんです」


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シルモでの評価を見て仕入れを決めたMASUNAGA designed by Kenzo Takada


なるほど、シルモに行けばブランドの世界基準がわかるわけだ。あとトレンドもわかりますよね。


「その意味ではド直球なクラシックが受けているのは日本だけなんだとも感じました。フランスは個性を大切にする国なので、トレンドではなく、銘々が好きなメガネを掛けているのかなって」


ここ最近、日本のメガネトレンドはグローバルなメガネトレンドからちょっとズレてきた気がするんですよね。日本はクラシックで売れ線の形に走り過ぎるというか、過去のメガネを執拗に引っ張り出してくるというか、クラシックばっかりやっているというか……ぶつぶつ。っつーか、もう2016年ですよ!


「たしかにマーケティングが上手いブランドが台頭しているところはありますね。うちはマーケティングだけじゃないブランドが欲しいんです。その意味では去年シルモで出会ったPreciosa(プレシオーサ)は面白いですよ。オランダのブランドですが、母体が「Frame Hollnd」というメーカーで、かつてRun-D.M.C.が愛用していたULTRA(ウルトラ)社のGOLIATH(ゴライアス)を製造していたところです」


ウルトラってBobby Sings Standard,(ボビーシングススタンダード)の森山さんが、オマージュモデルをつくってたとこですよね。


「そうそう。大宮店でウルトラのヴィンテージを扱っていて、凄く人気があったんです。ウルトラのようなゴツいデザインを探していたときにプレシオーサに出会って。もちろん、ウルトラやゴライアスは商標登録されているので同メーカーの別ブランドであるプレシオーサから『mod.940』として復刻したんです」


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プレシオーサの「mod.940」


プラダを製造してる工場がブランドをはじめたみたいな(笑)。なかなかマニアックな話ですね。


「はい。フレームがデカ過ぎてサングラスでも大きて、『これ誰が買うの?』みたいなデザインですが、うちでは完売したんですよ」


すげ〜、侮れないっスね。

メガネへの探究心が強ければ
費用がかかってもシルモに行くべき!?

ちなみに前回のUSH外山さんにも聞いたんですが、英語って話せるんですか?


「いえ、まったく」


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でも、仕入れるなら英語が話せないとダメですよね。通訳を雇ったとか?


「英語を話せる人と一緒に行ったんです。2014年は僕の妹を連れて行きました(笑)。2015年は大宮店の神田賢一くんがシルモに行ったんですが、馴染みのお客さんがフランスにいるっていうから、その方に通訳をお願いして」


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お客さんとの距離が近いポンメガネならではですね。それと松沢さんだけでなく、大宮店の神田くんもシルモに行ったんですね。


「実際に本人が現地に行って仕入れることが大事だと思うんです。プレシオーサみたいに神田くんが自分で仕入れた熱量が、お客さんに直に伝わる。これがうちの強みだと思います」


そういうの大事ですよね。むかし川岸くんも、グロテスク(現・ベナー)のスライムがドロっと溶けたような変なメガネを「これサイコーなんですよ〜」って、掛けてましたからね。ちなみに、ここ最近は若い人があまりシルモに行っていない気がしていて、いわゆる大御所のショップや人はシルモに行っているようなイメージで……。


「たぶん業界の大御所のみなさんも、お金がなかった頃からシルモに行っていたと思うんですよ。それって自分の探究心が勝っているから、わざわざ現地に行って仕入れていたはず。だから独自の雰囲気のお店を築くことができたし、それにお客さんが共感して、いま売れて大御所になっているって流れじゃないですかね。みんな最初は探究心から始まっていると思うんですよ。その意味では新しいメガネを仕入れたいという想いが強ければ、たとえ費用がかかってもシルモに行くメリットはあるんじゃないかな」


いいこと言いますね、松沢さん! いい感じでシメの言葉をいただいちゃったので、僕からは特に言うことがありません。では、パリで会いましょう!

■Silmo Paris information

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