特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:27 MASAHIROMARUYAMA・丸山正宏さん

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思う存分 メガネトークがしてみたい!

そうだ、あの人に会いに行こう。

業界人と思う存分“メガネトーク”を楽しむインタビュー連載です。
東京のアイウェアブランド「MASAHIROMARUYAMA」の丸山正宏さんに、
シルモの出展やデザインの在り方についてアレコレ聞いてきました。

file : 27 | MASAHIROMARUYAMA 丸山正宏さん

「未完成のアート」がテーマの
東京の新進気鋭ブランド

サカナクションの山口一郎氏をはじめ、芸能人の愛用者も多い「MASAHIROMARUYAMA(マサヒロマルヤマ)」。デザイナーの丸山正宏さんは、川久保玲や山本耀司といった世界的デザイナーを輩出したセツ・モードセミナーを卒業し、日本のメガネメーカーのデザイン室で、ジャン=ポール・ゴルチエといった海外メゾンブランドのライセンス商品を手がけた後に独立、2011年に自身の名を冠したブランドを立ちあげました。


ブランドのコンセプトは「unfinished art..(未完成のアート作品)」。完成されたプロダクトに疑問を投げかける斬新なテーマを掲げ、手描きのラフスケッチの要素をそのまま落とし込んだ「Dessin」など、クリエィティブなアイウェアを次々と発表。2016年に発表した「Broken」は、一度壊れてバラバラになった複数のフレームのパーツを再構築した斬新なデザインで、メガネ業界のアカデミー賞といわれる「シルモドール」にノミネートされました。


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シルモドール2016年にノミネートされたMASAHIROMARUYAMAのBroken[MM-0027]45,000円(税抜)


「シルモにはじめて出展したのは2013年です。以前の会社がヨーロッパのビッグメゾンの商品を手がけていて、自分も欧州の展示会にも参加していたので、自分にとっての海外出展は自然なアプローチでした」


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2017年、50周年を迎えたシルモ・パリ


「SILMO Paris(シルモ・パリ)」は、1967年からフランスで開催されているメガネ国際見本市で、世界のトップ・アイウェアブランドが新作を発表する、業界関係者なら一度は憧れる聖地。日本からもYELLOWS PLUS(イエローズプラス)やYUICHITOYAMA.(ユウイチトヤマ)など、人気のブランドが数多く出展しています。

MASAHIROMARUYAMAはフランスより
イタリアの方が人気がある?

ここからは丸山さんにシルモの出展や海外でのデザインの評価について話を伺います。実際のところ、シルモに出展して反応はどうでした?


「最初の1、2年はキビしかったですね。ヨーロッパの方は信頼を重視する傾向があるので、3年目のときに『お前まだここにいるのか』って、ようやく声をかけてくれるバイヤーが増えて。ちょうど『straight(ストレート)』を発表した時期で、特にゴールドと黒のカラーはイタリアのお客さんに評判がよかったです」


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MASAHIROMARUYAMAのstraight[MM-0023]45,000円(税抜)


「straight」は直線だけで構成されたコレクションですよね、カットされた目元がインパクトありました。で、僕もMASAHIROMARUYAMAはイタリアで人気が高いイメージがあったのですが、何故でしょう?


「フランス人が好むデザインは割と日本に近いというか、主張が激しくなく、スッキリとしたものを好む傾向を感じます。イタリアは主張の強いデザインでも柔軟に取り入れてくれるところがありますね」


では日本人のメガネ選びはどう思います? 「失敗したくない」とか「目立たない」といった、大人しいメガネを選びがちな気がするのですが……。


「日本人って人と同じものを好むイメージがあると思うんです。『安心感』というか『連帯責任』というか……これ伝わってますかね(笑)。一方で最近は個のオリジナリティを追求する動きもあって『お前がそういうの掛けるんだ』みたいなメガネを選ぶ子が増えている気がします。若い学生の女の子がみんな同じ格好していたのが、いまはそれが時代に合わなくなっている」


なるほどその流れはなんとなくわかります。そういえばMASAHIROMARUYAMAを掛けている若い女子をけっこうな頻度で見ますよ。それもギャルソンとか好きそうな服飾系っぽい感じの子が。


「そうなんですね。自分もアメカジとかじゃなく、ヨージやギャルソン、マルジェラやゴルチエが好きで、そういったものをつくるアイウェアメーカーに入社しましたから。ギャルソンやマルジェラをいいねって思うマインドの人が、『この眼鏡いいね』って、MASAHIROMARUYAMAを選んでもらえるのは嬉しいです」


サカナクションの山口一郎さんも、ギャルソンやマルジェラを愛用していて、MASAHIROMARUYAMAも掛けていますね。どうやら、デザイナーズブランドに合わせるアイウェアにMASAHIROMARUYAMAが位置付けられてきたようです。

”爆売れ”しなくていいから
なにか形になるものをつくりたい

丸山さん自身、ファッションも好きなんですね。


「ファッションもプロダクトもアートも好きです。小さい頃は画家になりたかったし、高校生になってからはイラストレーターになりたくて、セツ・モードセミナーに入学しました」



丸山さんはプロダクトだけを見ていなくて、ブランドのコンセプトや世界観、ビジュアル作り、webでのコミュニケーションなどをトータルで見ることができる、メガネ業界では稀有なクリエイターだと思います。ブランドのコンセプトも非常に考えられていますよね。


「自分としては、それは『通常』なことかな。たとえば、クルマというカテゴリがあって、すでに市場が完成していて、そこでフェラーリに対抗した同じようなクルマをつくっても入り込む隙間がない。それに大きな会社と同じところを狙っても、戦いは行われるかもしれないけど、世界観はつくれない気がしていて。そう考えると、自分の仕事はメガネ業界になかったスペースをつくるイメージかもしれません。そんなに“爆売れ”しなくていいから、なにか形になるものをつくりたいっていうのがブランドのスタート地点でした」


ちなみにコンセプトの「unfinished art..(未完成のアート作品)」は、フランスでは受け入れられました?


「う〜ん、どうですかね(笑)。出展したはじめの頃はテーマ性を前面に押し出していて、『少しまわりくどいから、もっとシンプルでわかりやすいほうがフランス人好みだよ』って、現地のバイヤーにアドバイスをもらったことがあります」


で、わかりやすく変えました?


「いや、ぜんぜん変わってないですね(笑)


いいっスね(笑)。でも実際にシルモに出展して、海外の取引先は増えたのでは。ブースを拝見しましたが、いつも海外のお客さんで賑わっているじゃないですか。


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シルモ・パリ2017に出展したMASAHIROMARUYAMAのブース


「それは増えました。日本は20〜30店舗ですが、海外は全部で100以上のアカウントがあります。お店の数はイタリアがいちばん多く30店舗前後、市場として大きいのはアメリカ。フランスは12店舗くらいです」


イタリアでそこまで伸びた要因って……デザインがハマったこと以外に何か思い当たるところは?


「ダンテ(Dante Caretti)さんとの出会いが大きいですね。彼はイタリアのMASAHIROMARUYAMAのエージェントで、彼を慕っている業界人も多いんです」


ダンテさんといえば、かつてはクリスチャンロスのセールスなども行なっていたイタリア・アイウェア業界の重鎮ですよね。一度シルモで取材したことがありますが、「マサヒロは出会ったデザイナーのなかでいちばんの天才だ!」って、べた褒めでした。


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MASAHIROMARUYAMAのイタリアのエージェントDante Carettiさん


「ありがたいですね。ダンテさんは2013年のシルモからずっとブースに来てくれて、声をもらってたのですが、2年くらい断っていたんです。これまでダイレクトでお店とやりとりをしていたし、まだまだ規模が小さいのでエージェント料を払うほどの数も出ないと。それでも熱心に来てくれるので、ヨーロッパの販路が増えてはじめた2015年に、ダンテさんにイタリアでのセールスをお願いすることにしました。回数を重ねて徐々にお互いの信頼が生まれるというか、じっくりと腰を据えて海外進出を狙えるのがシルモの魅力ですね」

ブランドの“面白さ”を
薄れさせずにいきたい

ところで、2019年のシルモで発表される新作はどんなコンセプトなんですか?


「新作のテーマは『doodle(ドゥードル)』で“いたずら書き”という意味です。直接、落書きしたような自由なデザインで、 ブラシストロークを再現した繊細なアウトラインが特徴です。こうやってビジュアルをつくる際に、ロゴのフォントを選ぶだけでなく、手書きの文字やいたずら書きを加えて、写真もコラージュしたんですよ」


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MASAHIROMARUYAMA「doodle(ドゥードル)」のコンセプトビジュアル


面白いですね。新作を早く見てみたい! ちなみに丸山さんがすごいと思うアイウェアデザイナーはいますか?


「デザイナーとしてはアラン・ミクリかな。デザイナーズブランドとして道を切り開いてきたところとか」


ミクリが好きなんですね! それは意外。メガネも持っているんですか?


「好きというかー、まぁ、好きなんですけど……1本も買ったことがなくて(笑)。僕はどちらかというと『テオ派』なんで。ただ、会社をつくってビジネスをデザインするとミクリが凄いのはよくわかります」



そうでしたか。シルモの出展も今年で7回目となり、着実に海外への販路を広げていると思うんですが、今後の展望は?


「昔から大きい企業になると面白さが薄れる気がしていて、自分としてはそこを大事にしていきたいんです。消費者はそこが面白かったからMASAHIROMARUYAMAを買ってくれたのに、売れたからといってそこの部分がなくなってもらっちゃ困ると。そこだけはブレずにいきたいですね」

インタビューを終えて。

丸山さんはメガネだけを見ていなくて、自分のブランドを深い思考で見据えていて、ビジュアルなどを外部に丸投げせずに、自分の手を動かしながら作っているところが、インディペンデントでいいなと。まだまだミステリアスな部分が多いですが、4年かかってようやくここまで話してくれるようになりました(笑)。

■Silmo Paris information

  • 2019年は9月27日(金)〜9月30日(月)まで開催
  • 「Silmo Paris(シルモ・パリ)2019」
  • https://en.silmoparis.com/
  • シルモのエントリーも手伝ってくれる
  • 「フランス見本市協会」
  • http://promosalons.cc

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