特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:21 GLOBE SPECS・岡田哲哉さん【後編】
思う存分 メガネトークがしてみたい!
そうだ、あの人に会いに行こう。
メガネのことは大好きだけど、それ以上にメガネの話をするのが好き。
そこで、これまでお世話になった人や、自分が好きな人に会いに行き、
思う存分“メガネトーク”をするインタビュー連載を始めました!
file : 21 | GLOBE SPECS 岡田哲哉さん【後編】
オープンと同時にブランドの代理店業をスタート!
手本にしたのはNYのロバート・マーク。
20代半ばでNY5番街のアイウェアショップを任されて驚異的な売り上げを叩き出し、イワキメガネ時代にはデンマーク・ブランドのリンドバーグを日本に橋渡しする役割を果たした岡田哲哉さん。30代は欧米諸国を駆け巡り、さまざまなネットワークを構築し、1998年に世界各国のアイウェアブランドを紹介するGLOBE SPECS(グローブスペックス)を渋谷にオープンしました。そんな岡田さんは、どんな店をつくりたかったのでしょうか?
「ひと言でいえば『両方がある店』です。金鳳堂さんやイワキメガネさんで培った、視力補正やフィッティングなど『道具としてのメガネ』のクオリティは落とさず、ファッションや楽しさといった新しいメガネの提案ができる店をつくりたかったんです。とはいえ、渋谷店の隣のビル3階でスタートしたのですが、最初の1週間はひとりもお客さんが来なくてヒヤヒヤでした(笑)」
意外、そんな時代があったんですね。グローブスペックスさんといえば、セレクトだけでなく、Lunor(ルノア)やThe Spectacle(ザ・スペクタクル)、Anne et Valentin(アン・バレンタイン)、Lesca LUNETIER(レスカ ルネティエ)などの、欧米ブランドの総代理店業も行っています。代理店業務を始めた理由は?
「きっかけはザ・スペクタクルでした。変わったことを始めた人がいると聞いて、90年代中頃にジェイ・オーウェンズ氏に会いにNYまで行ったんです。彼はアンティークフレームのパーツをコレクションして、そのパーツを活かして製造者に近いことをやっていて、凄く面白いと思いました。その後、ジェイから日本の店に紹介する仕事をやってほしいと頼まれたんです」
当時、メガネのセレクトショップがブランドの代理店業を行うのはレアケースだったと思うんですが。
「実は手本にした店がニューヨークのRobert Marc(ロバート・マーク)でした。当時はまだブランドを始めてなかったのですが、マンハッタンでお店をやりながらルノアやフロイデンハウスの代理店業をアメリカでやっていて、店の知名度向上とブランドの育成を同時に行っていたんです。自分もこういったことにチャレンジしたいと思い、オープンと同時にザ・スペクタクルとルノアの代理店業をはじめました。アン・バレンタインはお店で取り扱っていたのですが、トランクショーをしたときにアン夫婦が凄く信頼してくださって、日本での総代理店になってほしいとお願いされたのです」
レスカル ネティエは2013年からはじまったと思うのですが、どういう流れでした?
「レスカは歴史あるブランドで、フランスの『シルモ展』にずっと出展していたので存在は知っていたんです。『シルモ展』のブースって華やかで派手なものが多いのですが、当時のレスカは隅っこでテーブルを並べて凄く地味にやっていて、どう見ても良いものに見えない感じでした(笑)。でも、デザインは特徴があるなと気になっていて、創業者のジョエル・レスカさんと話をしたときに、『これがフランスのメガネ作りのスピリットだ』って、ガツンと言われて。ジュラに来ればわかるからと、レスカ一族の工房を見に行き、そこでフランスの伝統的なメガネ作りの真髄に触れることができたんです」
現地まで行く行動力が凄いですね。ちなみに岡田さんがブランドを選ぶ基準とは?
「基本的に海外ブランドも日本ブランドも垣根はないのですが、しいて言うならパイオニアであることですね。同じようなシートメタルのメガネがあった場合、そのブランドがパイオニアかどうかで判断します」
なるほど。岡田さんといえば、「シルモ展」をはじめ、イタリアの「ミド展」、NYの「ヴィジョン・エキスポ」など、海外のメガネ見本市にも毎年、足を運んでいますよね。
「海外に行くのはモノ探しもありますが、それだけではありません。出身が金鳳堂さんやイワキメガネさんという堅い会社だったので、オプトメトリーや技術的なものを凄く重視していて、それを常に精度を高く続けるために、海外で最新のテクノロジーや技術を学ぶという目的があるんです。メガネ店よりも異業種からインスピレーション受けることも多く、違う業種の店作りや考え、こだわりなどを現地でヒアリングしています」
そうそう、グローブスペックスさんではミュールバウアーの帽子も扱っていますよね。過去にはLevisのコンセプトデザイナーのJay Carroll(ジェイ・キャロル)氏の写真展も行いました。冒頭の「ファッションや楽しさといった新しい提案」はそういった部分に表れているんですね。
まさかの乱視軸のズレが発覚!
オプティシャンの「本質」とは?
——さて、ひと通りの取材が終わった後、グローブスペックスさんで購入したメガネを仕立てるため、岡田さんに視力測定をしてもらうことに。念のため、取材時に掛けていたメガネを渡して度数を測ってもらいました。(グローブスペックスさんでレンズを仕立てるのは初めてです)
「藤井さん、このメガネのレンズはちょっと問題があるようですが……」
「え? 」
「左目のレンズの乱視の軸度が88になっていますが、いま視力測定をしたところ、藤井さんの左目の乱視の軸度は108でした。20も軸度がズレると、見え方に支障が出ているはずです」
「え、ええ? そういえばこのメガネを1日中掛けていると疲れたり、カメラを覗いたときにピントが合わないから、ちょっとおかしいかななんて思っていたんです。えっと〜、このレンズを入れたのはどの店だっけ…………あっ!」
このメガネのレンズは時間がなかったので、過去に掛けていたメガネを知り合いの店に送り、そのデータを基に設計してもらったものでした! つまり視力測定せずにつくったもの!! あちゃ〜! ちなみにデスクワークが多いので、近くがよく見える緩やかな累進タイプのサポートレンズも入っています。
「藤井さんの調節力なら、サポートレンズが必要になるのはあと2〜3年先ですよ。いまは目の調節力がありますから自分で調節できるはず」
「はぁ、そんなもんなんですか……」
実はここ数年は原稿を書くときに、自分が経験した方が説得力が増すだろうと、望んでハイスペックなレンズを試していました。多少のプラシーボ効果もありますが、ロジック的に納得できるなら、自分の見え方は良くなっているはずと思い込んでいた節もあり……。
「正直、藤井さんの度数を拝見して愕然としました。乱視の軸度がかなりズレていたり、あまり必要のないサポートレンズが入っていたり……。ここ数年でメガネのファッション化は進んだものの、基本的な品質を提供できるお店は減っていて、それどころか正しいアドバイスや調整ができていない店があるようです。藤井さんのケースだけでなく、お客様が他店で購入されたメガネを拝見すると、調整や度数の状態に愕然とすることがよくあります。そのお客様に聞いてみても、正しくない説明や助言を受けておられるケースが多いのです……」
いやまぁ、事の発端は視力測定をせずに過去のメガネのレンズデータでメガネを仕立てた自分が悪いのです。しかもその元になったメガネも過去の自分のレンズと同じ度数でつくっただけなので、いわば「ダビングのダビング」のような状態。微妙な差異が加わり、度数にズレが生じてしまったのかと。とはいえ、今の自分にサポートレンズは必要ないと言われると……。正直、なにを信じたらいいのかわからなくなってきました。
「近年、メガネがファッションアイテムとして認識されたことは嬉しいことですが、反面、80年代に当たり前に行われていた職人気質な部分は薄れてしまったのかも知れません。私の前職の時代までは視力測定やレンズ選びの部分に関しては、どこの大手でも一定レベル以上の信頼できる知識や技術があったと覚えています。メガネがファッション業界にも認められたことは喜ばしいことですが、道具としてもっとも大切な部分が不確かになってきていることにいつも憂慮していて、業界全体としても信頼度が下がるのではと危惧していました。なにより、どこを頼れば良いのかわからなくなってしまっているユーザーの方々に大変申し訳なく思うのです」
はい、自分いまそんな気分っス……。とはいえ、視力測定の結果は本人のコンディションや検査する人で変わるので、一概には言えないのでは?
「確かに、『10人のオプティシャンがいると10通りの度数が出る』、と思われるかも知れません。でも実際は絶対的に合っている度数はひとつしかありません。1㎝は誰が見ても1㎝ですし、1㎏の重さも秤が正確なら誰がはかっても1㎏です。度数も完全に矯正した場合の度数は何度同じ方を検査しても同じに出ますし、少し時間が経っても、その方の目の疲れ具合などのコンディションに関わらず同じなのです。眼球の大きさ(眼軸長と)、角膜や水晶体の屈折度合いは変わりません。最終的につくる度数(装用値)は、使用目的やそれまでの眼鏡歴などにより加減を変えますが、基となる絶対的な度数はほぼ誤差なく測定することができます。関心があれば今度その根拠もご説明します」
……な、なるほど。まずはグローブスペックスさんでつくったメガネで調子を見つつ、この問題については時間をかけて考えたいと思います。
この事件を機に、岡田さんからはメガネの見え方や視力測定などについて、連日メールをお送りいただき、その“半端ない本気度”がビンビンと伝わってきました。日頃からファッショニスタの顔がクローズアップされる岡田さんですが、やはり「本質」はオプティシャンなんですね。
また、問題となったレンズを入れてくれたお店で視力測定をしてもらったところ、岡田さんが測定した度数とほぼ同じ数値が出たので、正直、ほっとしました。やはり視力測定をせず、過去のレンズデータだけでメガネをつくってはいけませんね。「猛省」です。
生誕20周年でグローブスペックスが
「世界一」のメガネ店に選ばれる!
無事にメガネを受け取り、まさにこの原稿を書いていた2月下旬。岡田さんから一通のメールが届きました。
「たった今通知を受けたのですが、来週のミドで発表される、世界のベストの眼鏡店を選出するBestore Awardにて、グローブスペックスがBestore 2017 に選ばれたそうです。グローブスペックスを作った時点で、自分なりの基準で世界一の眼鏡店を作りたい! と思ってスタートしたので、この様な賞に選ばれるのは感無量です! 特に今年20周年の記念イベントを行おうと思っていましたので(原文ママ)」
なっ! つまりグローブスペックスが「世界一のメガネ店」ってこと?
「BESTORE AWARD 2017」とは、イタリアで開催される「ミド展」で世界一のメガネ店を選出するという趣旨のアワード。1000を超える世界中のメガネ店から15店が絞り込まれ、世界の眼鏡展を熟知する業界誌編集者や業界を代表するブランド、建築や店舗デザインに関わる専門家などから構成される8人の審査員による厳正な審査を経て決定するというものです。そこでグローブスペックスの代官山店が一位を獲得したんです!
授賞式の当日。イタリアにいる岡田さんからこんなメールが届きました。
「自分の人生とキャリアの最高の1日でした!」
日本のメガネ業界としても誇らしいことです。さっそく話を聞いてみましょう。
「授与式は緊張と興奮、高揚感で大変でしたが、とても感動的で自分のキャリアのなかで最高の日でした。これまで海外に出向いた際、さまざまな国の素晴らしいメガネ店に触発され、手本とさせていただき、感銘を受けることがばかりでした。それが、自分がつくった店が欧米の店よりも、店の雰囲気やデザイン、革新性、品揃えなどを高く評価されたことが感慨深いです。お客様にとって最良のショッピング空間となっている、との評価をいただきました」
いや、これホント凄いですよ。しかも20周年のタイミングとは!
「4月に20周年を祝うイベントを計画していましたが、この思いがけない受賞がメガネ業界からの大きなプレゼントになりました。日本国内だけでなく、世界中のデザイナーや店のオーナーからも祝福の言葉が届いていますが、これら全ての方々のサポートやアドバイスがあったからこそ受賞できたと思います。これからもっとグローブスペックスらしさを突き詰めていき、みなさんに恩返しをしたい。そして、グローブスペックスが大事にしてきたものを、薄めたりなくしたりしないため、全スタッフと考えや価値観を共有したいと思います」
いや〜、天晴れです!! 岡田さんとグローブスペックスのDNAをぜひ若い方たちにも引き継いでください。きっとそれが、日本のメガネ業界全体の底上げにもつながるはず!
インタビューを終えて。
レンズの乱視軸がズレていた件はショックでした(自分が悪いのですが)。岡田さんの視力測定やレンズ選びは非常にシンプルで、“ハイスペック全部のせ”傾向にあった自分にとって非常に斬新! いま一度、目のことやレンズについて見直さねばと気づかされました。そして、「BESTORE AWARD 2017」の受賞、おめでとうございます! それにしても岡田さんの人生はドラマチックです(笑)。インタビューをきっかけに、そんな歴史の一瞬に立ち会えたことを光栄に思います。
GLOBE SPECS 渋谷店
- 住所|東京都渋谷区神南1-7-9 1F
- 電話|03-5459-8377
- 営業|11:00〜20:00 無休(年始を除く)
- http://www.globespecs.co.jp/