特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:25 ハバナミュージアム・平手千博さん

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思う存分 メガネトークがしてみたい!

そうだ、あの人に会いに行こう。

業界人と思う存分“メガネトーク”を楽しむインタビュー連載です!
今回はレアな海外ブランドをいち早く仕入れ、その目利き力で注目される、
名古屋の名店「ハバナミュージアム」の平手千博さんに話を伺いました。

file : 25 | ハバナミュージアム 平手千博さん

32歳、初めての海外買い付けで
「テオ200本」大人買い!?

1994年に名古屋にオープンしたハバナミュージアムは、まだ日本にハウスブラドを扱うセレクトショップが少なかった“メガネブーム黎明期”から続く名店です。オーナーの平手千博さんは雑誌やインターネットなどの取材にほとんど登場することがありませんが、レアな海外ブランドをいち早く仕入れる“メガネの目利き”として知られています。昨年のフランス・シルモ展では、平手さんがどのブランドを仕入れたかの噂がバイヤー間で飛び交っていたほど。そんな業界内で一目も二目も置かれる平手さんに、グイグイと話を聞いちゃいます。そもそも、自分でお店をやろうと思ったきっかけは?


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名古屋の中心地から少し離れた場所にあるハバナミュージアム。


「メガネ店をやる前にフリーターでヨーロッパをバックパッカーで放浪してたんですが、放浪して帰ってきてさてどうしたもんかなと。もともとメガネ好きでジュラ(表参道のリュネット・ジュラ)の顧客だったんですが、買うよりも自分でやるほうがいいだろうと、手っ取り早くメガネ店に勤めたんですよ。今はもうない、ダイエーの子会社のメガネ店。そこで3年ほど学んで、ハバナミュージアムをつくりました。30歳になったくらいかな」


修行して3年で自分の店を持つって早くないですか?


「当時は勢いがありましたよね(笑)。ただ、オープンしたときには海外ブランドは一切なかった。やりたいと思ったけど、お金がなかったし。あったのは金子眼鏡。それとオリジナルでセルをつくったら、メチャクチャ売れたんです。少し資金に余裕ができた翌年に、ジュラの高橋さんがフランスの展示会に行くと聞いて、一緒にシルモに行ったんですね。そこでテオ(theo)のブースに行って、200本仕入れて」


って、いきなり200本って多くないですか! 「8本くらいに……」、とかなかったんですか?


「なかったですね。昔は無茶苦茶やってました。あと、当時は安かったんですよ。ベルギーフランの時代で、上代も2万円代が中心で、仕入れも今より安いんです。そりゃ、大金ですけどね。で、店は一気にテオだらけ(笑)」


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オーナーの平手千博さん。


豪快ですねー。ちなみに平手さんは、英語は話せるんですか?


「いや、大してできないです。まぁ所詮、買うわけなんで。売りたい人と買いたい人の会話だし、メガネ特有の用語を知っていれば通じますよね。そこからは闇雲に海外に行ってました。秋がシルモ。時期がいまと少し違うんだけど春にミドやオプティがあって。アメリカもビジョン・エキスポのニューヨークとラスベガスの2回。年に5回は買い付けに行っていました」


で、仕入れた商品は飛ぶように売れたと?


「飛ぶように、ではないですが売れましたね。フロイデンハウス(FREUDENHAUS)やカークオリジナル、エルエーアイワークス(L.a.Eyeworks)などもやっていましたが、いちばん当たったのがテオでした」


そうして、テオといえばハバナミュージアムと言われるほど、平手さんは名古屋でテオを売りまくり、セレクトショップの地位を確立していったのです。

我々は“スキマ”である
メインストリームではない。

さて2018年、ハバナミュージアムの店内を見渡すとリンドバーグ(LINDBERG)にマイキータ(MYKITA)、クボラウム(KUBORAUM)にスタファン・プロイツ・デザイン(STAFFAN PREUTZ DESIGN)、アン・バレンタイン(Anne et Valentin)にモノクール(MONOQOOL)、イエローズプラス(YELLOWS PLUS)と、世界中のブランドが並んでいます。……が、肝心のテオは一本もないではあーりませんか!


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吹き抜けの店内にはドイツブランドのクボラウムや、日本ブランドのイエローズプラスが。


「今は置いてないんですよ。こういうお店ってほかとカブらないことが大事なんですね。ブランドってある時期を境に拡販しますが、名古屋でもテオの取り扱い店がパッと増えた時期があって。いろんな店にテオが置かれると、当然うちの売り上げが減る。でも結局、名古屋でのテオが売れた総本数は、結局あまり増えてないそうなんですね」


うん? じゃあ誰が得したんでしょうね。販売チャンネルが増えたことで、いろんな人がテオを手に入れやすくなったし、ブランドとしても取り扱い点数が増えたけど、結局、販売数は増えていない……。


「うちのようなメガネ屋は、“スキマ”なんですよ。メインストリームじゃない。なのに、今はみんながメインストリームのようにいってますよね。数字でいうと、僕らのような商売は、総人口の0.5%のファンを獲得できればいと思うんです。名古屋の人口が200万人として、うちの顧客リストは約1万人あるので。それだけあればやっていける計算。ハウスブランドのメガネもやっぱり“スキマ”なんですよ」


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つまり、“スキマ”なブランドが拡販に走ると、魅力が薄まり、取り扱いをやめるってことですかね。わかりますよー、お気に入りの立ち飲み屋が2店舗目とか3店舗目とかチェーン展開すると、途端に愛着が消えちゃいますから。


「う〜ん、微妙に違うような……。まっ、なんにせよブランドがダメになる瞬間を見分けるのがバイヤーの仕事なんですよ。最初は熱心にやっていても、拡大路線に走り、デザインがマンネリ化していくのを感じると“止め時”だなって思うんです」


その、“止め時”を逃すとどうなります? まだ売れるんだったらお店に置いといてもいい気がしますが……。


「そうするとお店のフェイスの鮮度がまったくなくなります。大事なのは鮮度の保ち方ですよ」


そうか、だからハバナミュージアムさんに置いているメガネはどれもモノが良く見えるんですね、メガネがギッチリ並んでいても綺麗だし、レンズにホコリひとつない。何かに似ていると思ったら、新鮮な食材ばかりが並ぶ市場みたい! つまりは、鮮度が落ちる前に全部売ってしまうんですね!!


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ものすごい密度で並んでいるマイキータ、この状態でホコリひとつない。カラフルさが際立つアン・バレンタイン。


「いやいや、全部は売れないですよ。うちのやり方としては店頭にダラダラと残さない。むしろ不良在庫化します。裏に不良在庫の山がありますが、それはバイヤーとしての勉強代。もちろんリスクは高いですが、モットーがあるんですよ。どこよりも最初にやる。それはハイリスクハイリターンだけど、うちはここ1店舗だけだし、リスクも僕ひとりが追えばいいんです」


うわー、その不良在庫の山を見てぇ〜! 絶対に宝の山ですよ。

子どもには店を継がせません。
僕の代で終わりです。

先ほど1店舗だけとおっしゃっていましたが、多店舗展開を考えることはありませんか?


「店を24年続けてきましたが、長く同じスタッフが勤めていて、いろんな部分が高度化しているので、生半可な知識では売れないんですよ。逆にいうと、僕や彼が店に立っている限りはなんとか売れます。実際に商業施設などに『お店を出しませんか?』という話もよくあります。やってもいいけど、たぶん僕が店に立たないと売れないですよって。こういう品揃えでこうやってやってくださいとは言えますけど、たぶん売れないですよと。売れなくてもいいんだったらやってもいいけど、僕は責任とれませんから」


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外観にはアイアンを使ったメガネのオブジェが。


店が増えるとハバナミュージアムのDNAを引き継いだスタッフの育成が必要になりますが、それが難しいですよね。たとえば、子どもにお店を継がせようとは?


「子どもに継がせようってのは一切ないですね。僕の代で終わり。うちは会社じゃないんですよ、商店なんで。でも、それでいいと思うんです。いま55歳なんですけど、70歳くらいまではこの仕事はできるかなと。そういう気になってきました」


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取材時に平手さんが掛けていたのが3Dプリンタを採用したモノクールのラウンド。


それは潔いですが、これだけのクオリティが高い名店なのにもったいないな〜。とはいえ、この世界は平手さんじゃないとつくれないってことですね。


「いまも忘れないようにしているのは、マニアがやっている店であることです。いろいろブランディングやマーケティングがありますけど、うちはマニアが趣味で好きでやっている店なんです。そこの部分を大事にしたいと、最近ますます思うようになってきました。いまの時代そういうのが大事なんじゃないですか。やっぱり“スキマ”ですから」

インタビューを終えて。

平手さんは独特な考え方を持っていてすごく面白い人でした。品揃えのテンションが高くて、実際のモノよりもメガネがよく見える。店に来るとテンションが上がるというか、平手さんからメガネを買いたくなるというか。90年代のセレクトショップってこうだったよな〜、ってのを思い出させてくれました。

HAVANA MUSEUM(ハバナミュージアム)

HAVANA MUSEUM(ハバナミュージアム) イメージ

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