特集:そうだ、あの人に会いに行こう。 file:14 BAUM optics 木下順愛さん・木下香子さん

思う存分 メガネトークがしてみたい!
そうだ、あの人に会いに行こう。
メガネのことは大好きだけど、それ以上にメガネの話をするのが好き。
そこで、これまでお世話になった人や、自分が好きな人に会いに行き、
思う存分“メガネトーク”をするインタビュー連載を始めました!
file : 14 | BAUM optics 木下順愛さん・木下香子さん
「チラシをまいて知らん客を呼ぶより
知り合いになった方が確実でしょ!」
今回は“じゅくちょ(塾長)”こと、バウム オプティクスの木下順愛さんです! じゅくちょは“大阪のスイス”と呼ばれる河内長野市に、2013年にお店をオープン。僕の地元も大阪ということで今回は関西弁でいきまひょか。それにしても、ウッドのハイカウンターがあってカフェかバーみたいですな。
「そやろ。メガネ屋って入りづらいやん。お客さんにはメガネじゃない用事でも来てほしいからカウンターをつくってん。あ、いらっしゃいませ」
と、ここでお客さんが来たので取材は一時中断……。
——さっきのお客さん、フリーペーパーだけ取りに来てましたね。で、じゅくちょもお客さんに近所のたこ焼き屋さんを教えてて。そこ旨いんスか?
「旨いで。ただ夕方までは別の店でやってるから、この時間はやってない。夜は食べながら飲めるっていうスタイル。駅前にある焼き鳥屋の一徹さんもメッチャ旨い」
近所のオススメを教えてもらえるのは地元ならではやね。ブログで見ましたけど、こないだ一徹さん主催のバスツアーに行ってましたよね。
「飲んで愉しむのがメインやけど、実はそれが販促活動にもつながるねん。用事がなくても気軽に立ち寄ってもらえるメガネ屋が理想で、チラシをまいて知らん人を呼ぶより、飲みに行った席とかで仲良くなった方が確実やん。知り合いになったら行きやすくなるでしょう。まぁ、残念なことに近所で紹介できるお店の数が圧倒的に少ないけど(笑)」
確かに店ないかも。大阪の南東部に位置する河内長野市は金剛山にほど近い山麓エリアで、東京でいえば奥多摩やあきるの市みたいな感覚ですな。
「ほんま田舎やで。だから、この辺の人は“ここで物を買うのを諦めてる”ねん。買い物行くならミナミ(難波)かキタ(梅田)や。でも、『こんな田舎でもおしゃれなメガネ屋があったんや、これやったら都会まで行かんでええやん』って思ってほしい。それにいま“奥河内”って呼んで、みんなで盛り上げようとしてるねん。だから、この店も地域の活性化につながればいいなって思うてますわ」
その感覚わかりますわ。僕も大阪時代の買い物は地元ではなく、南船場か南堀江。あと、“奥河内”と言われると、なんか良さげに聞こえるから不思議(笑)。ところで、こないだ夜にお店がバーになってました?
「そやねん。お酒用意して、お店閉めてからお客さんに食べたいアテをもってきてもらって。目指す商売は“笑売”です! このカウンターも意味あるねんで。嫁と2人でやってるから、加工室をつくったらその度に会話がちょんぎれるし、検査室に閉じこもったら他のこと見えへんでしょう。だから、カウンターの奥に加工機を置いて、会話しながらでも加工ができる。調整も目の前でできると。目の前で寿司握る職人みたいな感じ。お客さんからしたら裏に入って何されているかわからんよりも、ええやろ。この空間にウソはない」
……大阪のアホなおっちゃんと思ってたけど、メッチャ考えてるじゃないですかッ! 確かにカウンター座って目の前でプラ枠曲げられたら、へぇ〜って思うし、知らなかったメガネのことを知れる。
「そやろ、コーヒー飲んでも自然やん。あっちの棚の下にお酒も置いてるし」
どんなメガネ屋やねん(笑)。
カムロとは言わずに
“5歳若くなる”メガネ
でもなんでまた自分の店をつくろうと思ったんですか?
「前はショッピングセンターの中にあるメガネ屋でやっててんけど、ここでやっていくのは違うって思ったんや。センター内でどこかの店が抜けて、その後に安い店が入ってきて、これが繰り返される。出て行った所に入るんやったら、足下を見るような店しか入ってけえへんやん」
つまりは安売り店ばっかりになるってこと? せちがらいッスよね……特に関西。じゃあ、自分でお店をやってみた感想は?
「それはなに? 内容? 売り上げ? 気持ち?」
気持ち、気持ち。売り上げを書いてもしゃーない(笑)。
「やりたいようにできるから、楽しいてしゃーないよ。それにお客さん全員に好かれようとも思ってへんしね。『安いのないのん?』『グッチとかないのん?』 『もうちょっとマケてとか』、言われてもハッキリ断れる」
マケてはヒドいなぁ、いくら値切る文化がある大阪とはいえメガネくらい定価で買えよ(笑)。でも、こういう店ができたことで河内長野にもメガネブランドを知っている人が増えたんちゃいますか?
「うん? いやいや、うち販売のやり方が“ブランド推しじゃない”からさ。大事なんはここで買って満足してもらうこと。ここに来たらええメガネあるって思ってもらうことや。お客さんが『私が買ったメガネどこのん?』って聞いたときに『これカムロって言うブランドなんですよ』って言った方が染み込むでしょう。興味ない人に『これカムロってブランドで、デザイナーは頭チリチリで〜』って言っても染み込めへんやん(笑)」
たしかに僕の地元のツレにメガネのブランド名を言っても、誰もわからんと思う。「ふ〜ん……。で、それはええねんけど」ってアッサリ違う話をされるかな。
「前の店でラフォンのトランクショーをしたときも、この辺のお客さんからしたら『ラフォンってなんやねん、ラフォントって読んでまうわ!』みたいな感じやから、“フランスから可愛いメガネ集めました”ってDMに書いてん。カムロのトランクショーをしたときは、“5歳若くなるメガネを集めました”とかね。そうすると私を5歳若くしてよって、お客さんが来るんや」
田舎でやっていくには、それなりの工夫がいるんですな。
「そらそうでしょう。お客さんはトランクショーもわからへんし、『メガネのデザイナーってなんや?』って世界や。そもそも『どうせ売りつけられるんでしょう』って身構えられるねんから(笑)。でも、来てもらわんことには話がなにも始まらへんから、伝え方やDMの表現を工夫するわけやん」
なるほど、いちいち言うことに一理ありますな。もしバウムオプティクスみたいな店が全国の田舎町に増えれば、日本のメガネ民度も少しは上がるんじゃないですかね! 知らんけど。あと、じゅくちょのことを大阪の“ごんたくれ”と思ってましたが、凄く建設的に商売を考えている人やったんですね。いまは小籔に見えてきました(笑)。
インタビューを終えて。
ギャグを入れながらも本音をズバズバ言ってくるじゅくちょに、ユーモアあふれるリアリストという“浪速の商人”の姿を見ました。お金にシビアで財布の紐が堅い大阪で商売をするのはたいへんなことやけど、今のスタンスのまま、好きなことを楽しみながら続けてくださいッ!
BAUM optics(バウムオプティクス)
- 住所|大阪府河内長野市昭栄町1-27
- 電話|0721-55-2418
- 営業|10:00〜19:00 木曜
- http://baum-optics.com/